話が違う!!
スキー場に来て、比較的平らな部分を軽のジープっぽい車でリフトがある下のところを通り過ぎ、更にもう少し進んだ先で……車が停められた。
「ここから、歩きます」
「え?
どこまで?」
思わず依頼人側の人(大崎さんと紹介された)に聞く。
なんかこう、木の間に見えている細い獣道っぽい隙間を歩くと言われると……物凄く嫌な予感がするんだけど。
梅雨明け直後でガンガン植栽が育っている時期なせいか、道もどんどん狭くなるんだろうけどさ。車で入ろうとしない時点で、植栽の侵食だけの話じゃなくなってるよね?!
と言うか。
重機で慰霊碑を壊したんでしょう??
重機が入れるだけの道があるでしょう?!
「夏のレジャーは豊かな自然もアトラクションの一部なんです。
だから無闇矢鱈と木を切ったり道をアスファルトで整備したりするなと上から言われてまして。その結果、スキー場にある道路は舗装していない為、雪解けシーズンから梅雨明けぐらいまでは泥沼化してしまうんです。
お陰で一部車が通れないので、重量ギリギリな小型重機を分解して大型ヘリコプターで上げて、そこから開発の決まった部分を開拓し、同時進行的にごく細い目立たない林道を再整備しているところだったんです。
本来なら梅雨が明ければ泥沼化したところも水が引いて車が通れる筈なのですが、今年はそちらから水が引くのも遅くてまだ通れません」
大崎さんが言った。
ヘリコプターで重機を持ち上げられるんだ?
ちょっと意外。
つうか、林道があったんだったらそれをずっと整備しておけば良かっただろうに。
まあ、雪解けから梅雨明けまでは無理でも、その他の時期に通れる道があるならそれで良いだろうと判断したのかも。
時期によって使えない道なんて信頼性に問題がありそうだけど、完全にオフシーズンになると誰も行かない場所へ、使うか分からない道を何十年も整備し続ける予算はなかったのかな?
「スキー場がある小山の山頂付近では霊障が起きる様になってからダウンバースト的な突風が不規則に吹く様になった為、現在ヘリでの行き来は危険です。また霊障のせいなのか風のせいなのか、スキーリフトも故障しがちでして。
乗って動かし始めたのに、野原のど真ん中で宙に浮いた状態でリフトが止まると更に困りますから。足で歩くのが一番確実で結果的に早く、安全なんです」
大崎さんがちょっと済まなそうに言った。
「こう、道の整備が車が通るほど出来ていないにしても、それこそ電動自転車のマウンテンバイクっぽいのか何かで行けないんですか?」
思わず懇願してしまう。
いつの日か、特級術師への昇給テストの時の様な過酷な山歩きをまたする羽目になるのに備えて鍛えようとは思っていたけど、その『いつの日か』が今日になるのは想定外なんだけど〜!!
まだ鍛え始めてないよ!
街中でスクーター並みの速さで漕ぎもしないのに動いている、やたらとタイヤの幅が広い電動自転車だったら山道でも通れそうじゃない? あれを使おうよ!
まあ、あれって法令的には実はスクーター扱いで、歩道を自転車な顔をして走るのは違法らしいけど。でも、山道や林道を走る分には良いじゃない??
ナンバープレートが無いのも違法なんだろうけど、ここだったら私道扱いでオッケーになるよ、きっと!
「まだ林道部分の整備が終わっていないので、マウンテンバイクでも慣れた人でないと危険なんです」
大崎さんが言った。
あ〜。
まあ、山道って根っこや岩が飛び出て危険な上にそれを自転車で早くって言うのは確かにヤバいか。
それでも自力で歩くよりは楽そうだけど。
「ちなみに行きだけでどの位時間が掛かります?
あと、除霊が終わったら復路はリフトで帰れますよね?」
碧が口を挟んできた。
そうだね。
せめて帰りだけでもリフトなり、ヘリコプターなりで楽に帰らせてくれなきゃ私は多少のペナルティを食らおうと依頼をキャンセルするぞ!
ちょっと困った顔をしたが、大崎さんが頷いた。
「そうですね、リフトを動かして問題なく稼働できると確認するのに1時間ぐらい待っていただくことになると思いますが、それで宜しいなら帰りはリフトを使えるかも知れません。
行きは……2時間程度でしょうか」
マジか〜。
2時間。
まあ、考えてみたらこないだハイキングで鶴巻温泉まで歩いた時だって近くの駅から小山を越えて進むのに2時間ぐらい歩いたから、山歩きで2時間なんてごく初心者向け扱いなのかも。
とは言え。鶴巻温泉へのハイキングは最初がハードだったけど、半分以上はなだらかで歩きやすかったんだよねぇ。
ここはどうみても、ひたすら登るだけな気がするんだが。
「ちなみに、スキーリフトの下って木が切り開かれて真っ直ぐになっていますよね?
あれが最短距離だと思いますが、あそこを進む訳にはいかないんですか?」
山の中をぐにょぐにょと2時間掛けて歩くより早くない?
「あちらは勾配が急ですし、何ヶ所か沢を越えている場所があるのでそのまま下を歩くのは無理なんです」
大崎さんが言った。
ダメなのか……。
遠藤氏め〜〜!
2時間山登りがあると聞いていたら、絶対断ったのに!!




