夏用レジャー施設化
『お世話になっております、退魔協会の遠藤です。
ただ今お時間は大丈夫でしょうか?』
碧のスマホから毎度お馴染みな遠藤氏の声が流れてきた。
「大丈夫ですよ」
碧が応じる。
聖域の草刈りと回収はひと段落ついたから、諏訪であとやらなきゃいけない作業は、一袋分圧縮する他は東京で作っておいた符を雑草と一緒にラミネートして倉庫にしまうだけだからね。
もう聖域の雨避け結界も解除してもらったし、1、2日程度だったら依頼に時間を取られても問題はない。
昨日掛かって来たら、ちょっと今忙しいのでと断ったかもだけど。
そこら辺のタイミングが凄く良いよねぇ、遠藤氏。
流石に私らの行動を見張っているとは思わない(思いたくない)けど、もしかしたら諏訪に来てから何日ぐらいは実際に忙しくて、それ以降は仕事を受けたくないから適当にこっちで過ごしているだけって分かっている気がしないでもない。
退魔協会の職員は退魔師の数よりも多い依頼を捌くのに大変らしいから、そこら辺の見極めが上手い人が使える術師の担当になってキリキリ働かせようと頑張ってるのかも?
『実は、諏訪の近くにあるスキーリゾートの一つで近年のインバウンドと温暖化を鑑みて、夏にもレジャー施設として使えるようにしようと再開発をしていたところ、どうも慰霊碑をそれと知らずに掘り起こして砕いてしまったようでして』
遠藤氏が説明を始めた。
あ〜。
夏といえば海か山ってイメージだけど、最近は海に行っても暑すぎて楽しめないらしいよね。
つうか、今の猛暑じゃあ下手に裸足で砂浜を歩いたら火傷するんじゃない?
ビーチパラソルの下で寝ているにしても、周囲の気温が体温より高かったらいくら海のそばにいたって楽しめなさそうだし。
そう考えると、まだ山の方がマシなのかな?
夏休みだからと旅行で来ている外国人だって、ある程度都心での買い物を済ませた後は、都会のバカ暑いアスファルトの上を歩き回るよりは山の中の方でマイナスイオンを楽しむ方が良いかもだし。
とは言え、ここ数十年は冬にスキーやスノボで斜面を滑るだけだった場所を夏のレジャー施設にしようとしたら、それなりに土地を切り開いて山の景色を楽しみつつ、アクセスしやすい様にしなきゃだよね。
スキーリフトを使って移動できるかもだけど、車で乗り付けられるようにする必要があるかもだし。
いかに初期投資を少なくして沢山の人を楽しませて金を落とさせるかは、知恵の搾りどころだろうね。
で、知恵を搾っている際に地元の古い言い伝えとかを無視したか、最初から集めなかったかで、ヤバい慰霊碑を壊しちゃった、と。
古い慰霊碑だったら、作った村とかがとっくに離散しちゃっててどこにも情報が残っていない可能性もあるしね。
碧がこっちを見たので、『どっちでも良いよ〜』と口パクする。
「どこですか?」
碧が尋ねる。
『〇〇スキー場の近くです。
下のスキー場受付がある建物に来ていただければ、上まで案内するそうです。
料金は標準価格で、特に変な条件もないそうです。
工事が止まってしまっているので出来れば明日にでも来ていただけると嬉しいとの事なのですが……』
遠藤氏が即座に応じる。
工事が止まっちゃってますと言う案件が多いねぇ。
と言うか、もっと早く工事を始めれば良かったのに。
それともレジャー施設を作るのって1年とかもっと掛かる工程で、雪が消えた後に急いでも、その年の夏までに終了しないのかな?
「分かりました。
近所ですし、普通に壊された慰霊碑の近辺で悪さをしている悪霊を除霊すれば良いのでしたら受けます。
もしも悪霊があちこちに散っていて姿を見せないなんて場合でしたら、作業をその場で再開してみたら戻って来てちょっかいを出すなら除霊しますが、半日待って現れなかったらペナルティ無しの依頼辞退という事で良いですか?」
碧が尋ねる。
まあ、工事の邪魔をしていて退魔協会に依頼を出しているんだから、近くにいるんだろうけどね。
『はい、それで結構です。
現場や今までの被害などに関する資料をメールで送りますね。
そう言えば、一応工事現場なので歩きやすい靴でお願いします』
遠藤氏が言った。
うげ〜。
考えてみたら、スキー場のそばの再開発なんだよね。
しまったなぁ、山歩きの練習をちゃんとまだしてない。
現場のかなり近くまで車なりスキーリフトなりで行けると祈っておこう。




