魔術師になれる?!
「こちらが多分能力に目覚めた受験生君だと思うんだけど、どこかお茶でも飲みながら落ち着いて話し合えるところってあるかしら?」
エレベーターホールのところで調査員に合流して、碧が訪ねる。
お茶でもどうって誘ったのもあるけど、やっぱ工事のせいでここは煩いからねぇ。
建設的な話し合いなんて無理でしょう。
「ああ。
あちらの方に丁度良い喫茶店があるので、そこに行きましょうか」
調査員がそつなく提案してきた。
静かな店だと良いんだけど。
客が多すぎても退魔師に関する話し合いはし難いし、工事現場の音が漏れ聞こえるようじゃあこの受験生君がイライラして話にならないだろうからねぇ。
そんな心配をよそに、道を渡って脇道を入り曲がった先にあった店は、隠れ家的な店でまだ開店していないのではと思ったが、ちゃんとオープンしていたものの良い感じに中は静かだった。
まだ11時ぐらいだからランチの客が入ってくる前に話し合いを終わらせられるかな?
コーヒーや紅茶を各々がオーダーしてそれが運ばれてきたところで、一口コーヒーを飲んだ吉田氏が徐に名刺を取り出して受験生君に渡した。
「退魔協会の調査員として働いております、吉田秀一と言います。
こちらの二人は特級退魔師の藤山さんと長谷川さんです。
失礼ですがお名前を伺ってもいいですか?」
退魔師の存在を当然のモノとしたような顔で受験生君に尋ねる。
「……退魔師?!
え〜と、太田悠です」
受験生君が答えた。
少なくとも退魔師と聞いて鼻で笑いはしなかったところを見るに、最近の魔力の爆発から、超常的な力の存在に関してはそれなりに感じているんだろうね。
ただし、流石に退魔師のことを親から教わるような家の子だったら能力が覚醒してきた時点で退魔協会に相談しただろうから、一般家庭出身っぽい。
「太田君は、最近……かどうか知らないけど、変に風に乗って遠くの声が聞こえたり、鎌鼬みたいな現象が起きたりといったことに心当たりがないかな?
実は、明治維新と戦後のGHQの方針で退魔師や悪霊の存在が御伽話のようにされているし、実際に『霊媒師』や『霊能者』として表に出ているような人間の大多数は詐欺師なのだが、退魔師は実在するんだ。
そして、どうも君はその才能を開花させているんじゃないかと思う」
吉田氏が太田君に真面目な顔で話しかけた。
おお〜。上手いね。
確かに、『受験と騒音ストレスで、隣の工事現場を滅茶苦茶にしてない、君?』と聞くよりはよっぽどマトモな返事が返ってきそうだ。
うん、私が口を開かなくて良かった。
「あれって俺が受験ノイローゼになって幻聴が聞こえているとか、どっかの自殺した受験生の霊に取り憑かれたとかじゃないんですか?!」
太田君がグイッと身を乗り出して聞いてきた。
あ〜。
もしかして、受験のストレスで才能が開花して、それで益々ストレスが掛かって受験に失敗しとか?
だけど幻聴が聞こえているなんて認められないからギリギリ我慢して頑張っていたところに塾の隣が工事現場になるなんて追撃を受けて、ちょくちょく小爆発しているって感じかな?
というか。
あの塾って全国的に展開してる大手だよね?
他の場所のビルに行けば良いだろうに。
ここの近所に住んでいて、電車賃も払って貰えないの?
でも、もう一年受験料を払う羽目になる事を考えたら電車賃なんて親は気にしないと思うんだけどねぇ。
煩いのなんて、気にしなければ問題はないんだ!!と頑固に思い込もうと無理をして、工事現場に迷惑を掛けているんかな?
そうだとしたら、ちょっと工事現場の方々が可哀想だ。
邪魔されない為だったら、あの現場監督が喜んで都内の別の駅まで行く程度の電車賃ぐらい出してくれただろうに。
というか。
私らに払う依頼費だけで1年分の電車代のお釣りが出まくるだろう。
「悪霊にちょっかいを出せば取り憑かれる事はありますし、ストレスが掛かりすぎれば君がノイローゼになる可能性だってゼロでは無いけど、現時点での異音や変な風の動きは、君が風に干渉できる能力に目覚めたからだと思う。
実際に外に対してそれが効果を生じられる様になったなら、それを封じるか、制御する方法を身に付けないと誰かをそれで害した場合は意図的な殺傷と言う扱いになる。
退魔師になるには大学に通うのと同じぐらいかそれ以上な費用が掛かる場合もあるけど、封じるだけだったら無料で退魔協会が行うが、どうしたい?」
吉田氏が太田君に尋ねた。
なんかこう、封じる方が楽だよ〜って方向に話を持って行ってない?
退魔師が足りないなら新しい見習いになるかもな候補生はウェルカムじゃないの?
それとも、業界を知らない一般家庭から突発的に出てきた才能持ちは当たり外れが激しくて、できれば封じちゃう方が楽ってスタンスなのかね?
もしくは退魔協会に馴染みがあるような金持ちではなさそうだから、弟子入りする費用に関しても揉めるかもと思っているのかな?
でも、本当に金がないかとか、退魔協会に縁がないかは、親に会ってみないと分からないんじゃない?
ウチみたいに、親が子供に言わなかったとか言ったけど子供が幼すぎて理解してなかったなんて事もあるんだし。
「え〜と。
魔術師みたいのになれるんですか?
でも、お金が必要なんですね。
……親に詳細を説明して貰えます?」
太田君がちょっと考えてから、提案してきた。
どうやら流されてここで『封じて下さい!』とは言う気はないらしい。
まあ、そうだよね〜。
魔術師になれるかもと聞いたら、しっかり情報収集するまではそれを投げ捨てたりしないよね〜。




