ちょっとお茶でも
急いで駅ビルにあった店から贈答用のおかきの箱を二つほど買って、右側のビルに入っているオフィスに現場監督と調査員と一緒に訪問した。
「そろそろ重機の使用が本格化します。
色々とご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
と現場監督が突然の挨拶回りを行けとの要求にもめげずににこやかに両方で彼方の総務課の人に挨拶して回った。
幸いにも、どちらも殆ど仕切りがないオープンオフィス路線なのか、社内がよく見える。
で。
どちらも不安定な魔術師の適性持ちは居ないっぽかった。
熟練した術師が意識的に魔力を封じているなら見るだけでは分からないことも多いが、先程の怒りの爆発っぽい思念から察するに、今回は素人で急に能力が目覚めたばかりな人間の筈。
だから見回して見当たらないと言うことは、居ないんだと思う。
「居ませんね」
2件目の会社を回った後に、私はエレベーターホールで眉を顰めながら言った。
塾(と言うか予備校だね。どう違うのかよく知らないけど)の場合は挨拶で行く様な事務室と受験生がいる場所は分かれているだろう。
「塾の方は浪人生が殆どってことなら、私と長谷川で受験生な顔で行きますから、お二人…‥と言うか、吉田さんだけ外で待っていて貰えます?
横川さんは現場に戻って頂いて結構です」
碧が提案した。
確かに、浪人生だったら私らと数年しか違わないんだから、まだ誤魔化せるかな?
ちょっと老け顔だと思われるかもだけど。
受験勉強中の浪人生の平均的な服装からも外れるかもだが、受験よりも友達との遊びを重視しているオシャレ系な浪人生だっているかもだし。
と言うか。
遊び用の服にしてはちょっと地味かな?
まあ、工事現場って聞いていたから今日はかなりカジュアルな服装なので、浪人生に紛れ込めるでしょう。
多分。
と言う事で、エレベーターで分かれて私たちだけ塾の階で降りる。
幾つもに分かれている自習室を手当たり次第に覗き込んでいく。
ビデオ講座の部屋は後回しだ。
ヘッドフォンして授業を受けてるなら多分さっき程度の音だったらそこまで気にならないでしょう。
本格的にバリバリと壁を壊したりし始めたらヘッドフォンでも太刀打ちできなそうな気がするけど、どうするんだろうね。
そんなことを考えながら、覗いて行く。
最初の部屋。三人掛けの机が横に3列、縦に10列ぐらい並んでいて、ほぼ全ての机の両端には誰かが座っている。
朝からご苦労様〜。魔素の濃度は部屋の中にいる人間の周囲でも目に付く異常は無し。
2番目の部屋。最初の部屋とほぼ同じ構造と人の配置。ココにも魔素的異常はない。
3番目の部屋は……扉を開けたら部屋の中の魔素が不安定に波打っているのが見えた。おお? 怪しいね〜。
今までに比べるとがら空きと言って良いぐらい人の少ない部屋の中を見回すと、魔力が不安定に漏れ出ている男子生徒を発見。
この部屋だけ妙に空いているのって、魔力の漏洩が周囲に不快な感覚をもよおしているのかな?
と言うか、元素系の適性があるなら鎌鼬とか、軽度なポルターガイストっぽい現象が起きているかもだから、そっちかな?
適性なしでも圧迫感を感じるほどの魔力ではないと思う。
とは言え、重機を倒したり隣のビルのガラスを割ったり出来る程度の出力があるのだ。
退魔師として働けるだけの魔力はあるんじゃないかな?
致命的に霊の感知能力が弱いとか言うんじゃない限り。
「こんにちは。
ちょっと話を聞きたいことがあるんだけど、少しだけお茶に付き合ってくれないかしら?」
意思誘導を使ってこちらの誘いを前向きに受け取る様に『説得』しながら一人ポツンと前の左端の机に座る男子生徒の肩を叩いて声を掛ける。
「まあ、いいよ。
奢ってくれるんだよね?」
ビクッと驚いた様な反応を示したが、幸いにも意思誘導への耐性は無かったらしく、青年(少年?)はあっさりと携帯と財布を手に取って席を立ってくれた。
「勿論!」
碧が頷き、部屋から出る。
他の受験生がコソコソとこちらの動きを横目で見ているのを感じるが、誰も『部外者が紛れ込んでる!!』と声をあげる様子は無かった。
と言うか、この犯人(と言うほど悪意はないかも?)を部屋から連れ出すことが嬉しいのか、ちょっとした安堵のため息があちこちから聞こえてきた。
他の自習室はもっと混んでいたからなぁ。
いまいち席とりが上手くいかなくて、他の部屋で席を確保できなかったからこの術師未満の受験生と一緒になったものの、出来ればその状態を出来るだけ早く解除したいところだったらしい。
私は現役で大学に入ったから、基本的に予備校には主に店舗での授業と模擬試験だけを受けに行き、自習は自分の部屋でやっていたんだよねぇ。
ここの浪人生たちは、自習をこちらでやらないと言う選択肢が無かったのかな?
まあ、取り敢えず。
まずはどうやって状況をこの浪人生に説明するかだね〜。
調査員がそういうのに慣れているといいんだけど……。




