八つ当たりかな
私たちが台形型の建物を案内されている間に工事の作業員が到着していたのか、1階に降りてきて外に出たらあちこちに人が散らばって各々なにやら準備をしていた。
工事の責任者だと言うおっさんと軽く挨拶をしている間に、トラックが近づいて来て、バックで入る為に作業員(?)の一人がホイッスルを吹きながら案内し始める。
トラックってエンジン音自体が煩いんだなぁ。ホイッスルも工事現場に煩い騒音の中で聞こえる様に使うので、十分以上に煩い。
なんかもう、会話しようと思ったら怒鳴らなきゃいけない感じで、他の作業員の人たちもお互いの意思伝達の為に怒鳴り合っているから責任者(横川さんと言うらしい)との挨拶はなし崩しに終わってしまった。
こう、SPとかが耳に引っ掛けてる補聴器みたいな通信機を皆に配って大声で怒鳴るのだけでも減らしたら?
まあ、作業員の一人ずつにそんなもんを配布する予算は無いんだろうけど。
煩いな〜と思いながら周囲を見回していたら、突然攻撃的な思念が聞こえた。
『煩いんだよ!!!!』
それとともに、目の前の建物の横にあるプラスチックの看板の一部に亀裂が入り、破片がパラパラと下に落ちてきた。
「あれが霊障の一例ですか?」
調査員に尋ねる。
ちなみに、碧や周囲の作業員はまだしも、調査員も今の思念が聞こえなかったようだ。少なくとも、驚いた素ぶりや何処からきたのか探る様な動きは無かった。
黒魔術師じゃないんだ?
調査員にも黒魔術師がいたと思ったけど。悪霊ではなく生き霊の可能性もあるとしたら黒魔術師適性のある調査員を派遣するかと思ったが、考えてみたら生き霊だったら他の適性でも視えるし、黒魔術師は転嫁付きか否かを判断しなきゃいけない呪詛関連の調査で忙しいのかな。
今回は特定の人間に被害が出ている訳では無いらしいので、呪詛じゃ無いと見做されてるんだろうね。
現に、今のは明らかに呪詛じゃ無かったし、退魔協会の判断は間違ってはいないが。いないが……黒魔術師の適性がある人間を寄越したらもっと早く原因が分かったんじゃないの?
まあ、黒魔術師の適性がある調査員にしたってどの程度の能力かは知らないけど。
「そうですね。
まあ、朝のスタート時はあんな程度ですが、重機を使ってもっとガンガン作業を始めるとガラスが吹き飛んだり、重機が倒れたりともっと大きな霊障が起きることが多いです」
調査員が頷きながら言った。
「ちなみに工事ってかなり煩くて周囲にとっては迷惑だと思いますが、そう言う騒音被害に関する補填とかってどうなっているんですか?」
歯医者はまだしもオフィスなんかじゃ会議や電話にも支障が出るだろうし、塾なんて授業が出来ないんじゃない?
「オフィスに入っている会社には駅の向こう側のビルの貸しオフィスの部屋を何部屋か押さえてその費用をこちらが負担しています。
塾に関しては工事の期間だけ、平日の日中は大教室での授業はなく、個々人がヘッドフォンを使うビデオ講座と自習室としての使用だけになるように交渉してあります」
私の質問を聞いた横川さんが教えてくれた。
へぇぇ。
塾って授業の合間だけでなく、一日中自習室なんて使い方もあるんだ?
まあ、家で勉強しようと思ってもついつい気が散るよね。
と言うか。
考えてみたら、平日の朝からいるってことは浪人生なんだろうなぁ。
さて。
今の思念と看板にヒビが入った際の魔力の動きを鑑みるに、どうも工事の騒音でストレスがマックスになった受験生かオフィスワーカーが、魔術師としての元素系適性に目覚めて我慢が出来なくなった時に当たり散らしているっぽい?
本人が分かってやっているのか無意識なのかは不明だが。
魔素が薄い現代地球で、碌に訓練も受けていない素人が魔力に任せて八つ当たりしているんじゃあ一回やったら暫くは魔力がなくて連続で大きな爆発は無さそうだけど、どうやって犯人(?)を特定するかが問題だね。
「う〜ん、まずはそのオフィスの方にちょっとお詫びのご挨拶にでも顔を出しません?
やっている人が何処にいるのか、ある程度近付いたら分かるかもなので」
昼食時にでも出てくるのを見張っていると言う選択肢も一応あるが、一気に大量な人が出ていくタイミングに紛れ込まれたら見つけ出せない可能性が高いと思うんだよね。
今、オフィスか塾にいる人なのはほぼ確実なので、急いで挨拶回りに行って探そう。




