現場
遠藤氏から貰った資料を元に来た現場は、都内の駅から比較的近い区画だった。
戦後のバタバタした時期に建てたのか、もしくは地権者が絶望的に仲が悪かったのか。三角形な土地と、台形な土地と、小さな正方形の土地に建った小さな3軒のビルが解体待ちで覆いに囲まれている。
最近は不動産価値が上がってきたし、戦後や高度成長期に建てたちゃちなビルだったらそろそろ水道管とか電気の回線とかがどうしようも無くなっているのだろう。大幅なリフォームか建て替えが必要になって、誰かが頑張って土地の所有権を整理して区画全部を一気に解体して一つの大きなビルに建て替えることのしたのでしょうね。
建て替え区画の駅に近い側の向かって右隣は比較的新しそうなビルが建っていて、歯医者と何かのオフィスと、塾が入っているようだ。後ろは線路。そして、左隣は……ラブホ?!
こんな普通な駅のそばにラブホがあるなんてびっくりだが、1時間毎のStayとNightと言う形で外に料金が書いてあると言うことは、そうだよね??
もっと如何わしいところにあるラブホだったら見た事があったけど、こんな普通な駅のそばにあるなんて、驚きだ。
一体どんな人が使うんだろう?
まあ、それはさておき。
「重機や工具無しに静かに人が入る分には殆ど何も霊障は起きないんです。
ですが工具で音を立てて作業を始めたり、重機を動かそうとするとラップ音みたいのがして扉が突然閉まったり、ガラスが吹き飛んだり重機の油圧ホースが切れて故障したりと問題が起きまして……」
退魔協会の調査員だと言う人が説明しながら台形な土地にあるビルの中へ私たちを案内してくれた。
今回の依頼は原因が分かったら調査員に見せるってことなので、後になって調査員が来たら霊障が止まっていたでは困ると、最初から調査員が付き添っている。
先に問題が起きていない状況で見せて貰ってから、解体作業を始めて霊障が起きるのを確認する事になっている。
基本的に作業を始めたら霊障が起きるのは台形の土地の建物らしいが、絶対ではないそうだ。台形のところで問題が起きるならばと他の2軒の方を先に解体しようとしたらそちらでも暫くしたら霊障が起きるらしい。
「う〜ん、確かに霊が居る気配はないですね〜」
適当に階段を登って屋上まで行くが、途中で何か感じたりはしなかった。
『ハネナガ〜。
隣の三角形の建物と、その奥の正方形に建物をさっと見て回ってどこかに悪霊か生き霊がいないか、確認してくれる?』
碧が調査員に話しかけて注意を引いている間に、使い魔契約をしている鴉霊のハネナガを喚び出して、お願いする。
『了解』
短く答えてハネナガが姿を消す。
調査員が黒魔術師系の適性持ちだったら碧が注意を引いていてもハネナガが視えるかもだが、黒魔術師だったら動物の浮遊霊を手伝いとして誘う事ぐらい、自分でも出来るでしょう。
誠実に向き合えば、難しい術者保護用の契約方法を知らなくても使い魔として使うのは可能だ。
扱いが悪くて逃げられたり報復されるのを防ぐにはそれなりに技術が必要だけどさ。
まあ、変に霊を繋ぐ技術を持っていなければ、あっさり契約破棄して逃げられるだけで、報復を防ぐ必要もないんだし。
屋上を見て回った後にまたビルの中のさっき見なかった半分を確認する為に降り始めたところで、隠密型のクルミも出して飛ばす。
『どっかに霊がいたら、誰が騒ぎを起こしてるのか聞いてみて』
『オッケー』
近くに見知らぬ霊能者がいるので警戒しているのか、今回は珍しくクルミからボーナスの要求が無かった。
まあ、何か見つかったら強請られなくてもあげるけどさ。
と言う事で台形のビルの中をきっちり歩いて回るが、何も見つからない。
「随分と綺麗ですが、一度穢れを祓ったんですか?」
碧が調査員に尋ねる。
ほぼ穢れ無しって古いビルだと珍しいよね。
「ええ。
古いビルだったので、それなりに穢れや怨念が染み付いている箇所もあったので最初に依頼を頼んだ方が全般的な浄化を試してみたんです」
調査員が言った。
おい。
既に全体的な浄化を試しているのに、碧のそれをやるんでも上手くいけばオッケーと提案するってちょっと酷くない??
まあ、碧の浄化だったら威力が違うからと藁を縋る思いで提案したんかもだけど。
でも、失敗しても報酬無しなキャンセル扱いだから、退魔協会側に損はないよね。ちょっと誠意に欠けてない?
どちらにせよ。
時間帯とかやっている作業に引き寄せられて現れる悪霊ってあまり居ないし、いたんだったらもっとここが穢れているだろうから、清めた後にも霊障が起きているなら生き霊か、ライバル企業か地元の反対派の嫌がらせだろうね。
と言うか、こんな商業地区だったら『地元の反対派』なんていないよね?
ラブホの建設に文句を言わなかったんだったら、どう考えても古い歪な形のビル群を壊してスッキリ建て直すのに反対する理由は無いでしょう。
下に降りるまで、やはり悪霊は見当たらなかった。
『何か居た?』
ハネナガとクルミに念話で尋ねる。
『居なかったにゃ〜』
『鼠霊が数匹居た程度だな』
クルミとハネナガから返事が返ってきた。
『ちょっとそのままそっちに残っていて、何か起きるか確認してて〜』
無いと思うけど、作業を始めたら突然現れる悪霊だったら即座にハネナガなりクルミなりに教えてもらいたいからね。
「では、普段の作業を始めてどんな感じに霊障が起きるのか、確認しましょうか」
実際に見ない事にはなんとも言えない。




