マジ??
杉原さんからは、病院で別れてから1週間後ぐらいに連絡が来た。
踏み倒すつもりなのか、もしくは1ヶ月強も寝たきり生活だと筋肉が劣化しちゃって大変なのか、どっちかな〜と思っていたのだが、どうやらリハビリが大変だったようだね。
「連絡が遅くなってすいませんでした」
カリスマ祈祷師の活動の後にランチをご一緒しませんかと招待されたので行ってみたら、ちょっとおしゃれな店の個室で杉原氏に謝罪された。
ちなみに色々と迷惑を掛けたからと言う事で、ウルフ君と吉野さんも同席している。犬を個室とは言え連れ込めるレストランなんてあるんだね〜。
まあ、キーキー煩くギャン泣きする子供より、ちゃんと躾けられた犬の方が余程周囲の食事の邪魔にならないもんね。
西洋なんかでは子供がそれなりに大きくなるまでレストランに連れて行かないらしいが、日本もそうして欲しい。
ファミレスどころか普通のイタリアンレストランの通路を走り回る子供を無視してママ友とダラダラと話している母親連中も、周囲の冷たい目に気付いて欲しいよ。
下手に注意してSNSなんかで炎上されるのが怖いんだろうけど、店もそれとなくそう言う客はさっさとお会計をするように促して追い出す方向に動いて欲しい。
それはさておき。
治療費に関しては、連絡があった日に振り込まれているから今日は単なる事後報告とお礼の気持ちを伝える為だそう。
中々律儀だ。
「凄いんですよ。
杉原さんの家、殆ど空っぽだったんです!!」
メニューを選んで店の人間が去ったところで、吉野さんが教えてくれた。
「空っぽ?
空き巣にでも入られていたんですか?」
確かに1ヶ月以上も入院して留守にしていたなら、空き巣に根こそぎ家の中身を奪われる可能性はあるのか。
杉原氏の世代だったら家に多額の現金を隠し持っていたりはしなさそうだけど。
まあ、ソーラーパネルのケーブルとかでも盗まれるご時世なのだ。
良い家具とか家電とか腕時計とかがあったら、売れば金になるよね。
「帰宅して、それなりに拘って買った家具や家電や腕時計やカフリンクとかが無くなっている家を見た時は空き巣だと思って警察に被害届を出したのですが……」
苦笑しながら杉原氏が説明を始めた。
おやぁ? 口振からして、空き巣じゃないの?
「幸い、腕時計がそれなりに高額でシリアル番号付きだったお陰で業者に流れていたのが見つかったんです。
で、なんと売りに出したのが妹だったことが判明しまして」
杉原氏が溜息を吐きながら言った。
うわ〜。
殺さなくても死ぬと思って、早々に家の中身の処分を始めてたの??
「相続すると思って先に手を出していたんですか………」
碧が呆れたように応じる。
「母の介護が大変だと言うのは聞いていましたし、介護で家を空けることが増えたせいで夫が若い女性へ夫婦で貯めていた老後用の資産を貢いだ挙句、離婚になって実家に戻る羽目になったとも聞いていたのですが。
思っていた以上に精神的に貧しているようですね。
個人宅から物を売る時に所有者である証明がいらないと言うのもびっくりでしたが」
杉原氏が言った。
あらま。
妹は不倫された末の離婚ですかぁ。
しかも貯金を貢いじゃった挙句となると、財産分与も少なそうだよね。一応年金は厚生年金も含めて分前を貰える筈だけど、半分になった年金で暮らすのは難しいだろう。
しっかし。腕時計はまだしも、家具とか家電なんて、杉原氏の家まで業者が取りに来たんだろうに。そこの住んでいる住民だと証明できなくても、鍵を使って玄関を開けられれば物って売れちゃうんだぁ。
驚きだね。
杉原氏の妹って事はそこまで若くないだろうから人生のやり直しも難しいだろうねぇ。
しかも母親の介護まであるんだし、働くのも厳しいだろう。
そう考えたら、下手に相続税とか掛かるようになる前に金目の物をさっさと換金しちゃっておこうと思ったんかね??
とは言え、家電やカフリンクや腕時計で相続税なんて掛からないだろうに。
「ちょっと介護疲れでノイローゼ気味なのですかね?」
「なんかもう……。
流石に自分を殺そうとした上に家の中身まで勝手に売り払った相手に会いにいく気も起きなくて。
そこまで大変なのだったら母をどこかの介護施設に入れたらどうかと父に電話したら、実は先月から既に施設に入っていると言われました。
どうも私の入院で踏ん切りがついたそうで。
しかも、ご機嫌に酔っ払っていた父によると、色々とメタボや栄養管理とかで健康診断で煩いことを言われて節制していたのに、そんなの今更無理をしてもしょうがないじゃないと言って酒を買って来てくれるようになったとそうで」
微妙そうな顔で杉原氏が応じる。
「高齢なお父様にお酒ですか……。
まあ、人生の楽しみは大切でしょうが、転んだら危険でしょうし、認知症リスクも高まりますよね」
碧が指摘する。
「とは言え、本人の為だからと節制をするよう言っても、自分はもう十分長生きしたんだから、最後ぐらい好きにやる!と怒られてしまいましてね。
たとえ近いうちに酔っ払った父親が階段から落ちて首の骨を折って死んだと言う連絡を受けることになろうと、止められないでしょうねぇ」
杉原氏が深く溜息を吐いた。
まあ、そうだよねぇ。
たとえ介護をしなくて済むようになったとしても、施設に入った奥さんに会いにいくだろうから父親を新潟から東京に呼び寄せる訳にはいかないだろうし、遠隔地にいるんじゃあ酒を飲むなと言ったところでそれを強制する手段はない。
しかも本人が節制するつもりがないんじゃねぇ。
と言うか。
なんとか説得して断酒に合意させても、その妹が甘い事言ってまた酒を渡して呑ますようになるだろうね。
「まあ、子供の頃から妹を猫可愛がりしてきた両親ですからね。
家を継がなかった裏切り者と罵られて、もう10年以上も帰省していない私に出来る事はありませんから。
取り敢えず、緊急連絡先は妹ではなく吉野さんにお願いすることになりました!」
にっこり笑いながら振り切った様に杉原氏が言った。
おや。
元々、あまり家族と仲が良くなかったのか。
それだったたもう、それなりに仲が良さげな吉野さんと結婚しちゃって、遺言書も作って妹を遺産相続から可能な限り範囲内で排除しちゃえば?
隣人なんだから引っ越さずに気楽に半同居生活っぽく暮らしていけば、それほど生活を変えないで済むし。
いや、だけど結婚したらどちらかが姓を変えなきゃいけないから、そっちの手間は大変か。
取り敢えず。
それだけの面倒な事をやる価値があるとお互いに感じたらそうしても良いし、少なくとも妹が杉原氏を東京まで出てきて殺害する事はないと期待しましょう。
カルマ以外で妹が悪事の報いを受けるかは不明なのがちょっとモヤるが。
しょうがないよね。
「折角助かった命です。これからは楽しく人生を楽しんで下さい。
また昏睡状態になったら連絡を下されば助けられたら助けますので」
碧がにっこりと二人に告げた。
だね〜。
ここでこの話は終わりです。
明日は休みますが、明後日からまた宜しくお願いします!




