し〜!
「こんにちは〜、杉原さん。
吉野です」
私は杉原氏の魂を体に戻そうと集中しているところで、個室の入り口から吉野さんが入ってきた。
「ドアを閉めて下さい」
碧が小さな声で頼む。
「はい!」
つられて小声で応じた吉野さんが入り口の横開きな扉を引っ張って閉めたところで、術を展開して杉原氏を体に戻す。一応、体と魂が再び一緒にあるのに慣れる前にうっかり転んだ拍子とかに魂が抜け出さないよう、軽く結びつけておこう。
1、2ヶ月程度しか保たない程度の魔力しか込めないが、それが切れる前に交通事故(や包丁で滅多刺し)とかで死んだ場合は昇天に差し支えるかもだから、杉原氏に何かあった時には私らに連絡するよう、吉野さんに頼んでおくべきかな?
魂を体に接続し終えたところで、杉原氏の肩を叩いて起こす。
「大丈夫ですか?」
ベッドに横たわっていた杉原氏の目がぱちっと開いた。
「起きた?!」
吉野さんが押し殺した声で小さく叫ぶ。
「あ、本当だ。
ありがとうございます。
後でお礼をしますので、連絡先を教えて下さい。
吉野さんも。
ご迷惑をお掛けしてすいませんでした。
あとでウルフ君に謝っておかねば」
杉原氏がモゾモゾと腕を動かしながら言った。
「ちょっと妹さんの暴挙がショックでトラウマになって体に魂が戻れなくなってしまっていたようですね。
ちなみに、今まで幽体離脱をした事はありましたか?
こう、夢で街の中や知り合いを見た事があったとかでもいいです」
杉原氏に尋ねる。
「ないと思います。
あまり夢って覚えていない体質なので自信はありませんが」
ゆっくりと点滴が刺さっていない左手を上げて頬を擦りながら杉原氏が答えた。
多少はまばらに髭が生えているがモジャモジャではないので、時折看護士さんが剃ってあげているのかね?
髭もじゃだと、もしもの時に酸素吸入とかするのに邪魔そうだし。
それとも単に体質的に髭が滅茶苦茶薄い人なのか。
流石に1ヶ月放置してこの状態はないと思うが。
「取り敢えず。
杉原氏の病状は体の不調というよりもアクシデント的に起きた幽体離脱の解消が出来なかったと言う魂の問題でした。ですが病院に入院していた以上、それを解消したとなると違法な医療行為だ!と病院側に我々がイチャモン付けられるかも知れません。これから私たちは出て行くので、暫く待ってから声を掛けていたら偶然目が覚めたような感じにして下さい」
杉原氏と吉野さんに告げる。
知り合いに声を掛けられたら昏睡状態から目覚めたなんて、今まで看護してきた病院の人とか、お見舞いに来た人(居たらだが)はどうなの??と言いたくなるような感じだが。
まあ、なんだったら二人が実はお互いを大切に思い合っているとでもして、愛情が重要だったのだと誤認させても良いよね。
確か吉野さんも杉原氏も独身な筈だし、年齢も極端には離れていないでしょう。
退院すれば病院の人間とはこの後は付き合いはないんだし。
もしも杉原氏のお見舞いに来ていた職場の人とかがいたら、暫く揶揄われるかもだけど。
「分かりました。
ですがご連絡先だけでも、教えて頂けますか?
そこの引き出しにスマホや財布などが入っているようなので、そこにメモを入れて下さい。
流石にスマホの充電は切れていると思うので」
杉原氏が今度は足をモゾモゾ動かしながら言った。一応手足は動くようだね。
しっかし。本人が横たわっているすぐ側とは言え、鍵の掛かっていない引き出しに貴重品を入れておいて大丈夫なのかね?
どこか金庫にでも入れておいて貰ったほうが良さげだけど。
貴重品というよりも、搬入されてきた時に身につけていた個人的な所有物と言う扱いなのかな?
碧がバッグを漁って、出てきた手帳を1ページ破いてカリスマ祈祷師のメールアドレスと碧の電話番号を書き込んだので、それを引出しの中に入っていた財布に突っ込んでおいた。
一応万札が見えたので、誰かに少し盗まれているとしても、すっからかんではないようだね。
「じゃあ、私と藤山は出て行きますので、5分か10分程度待ってから話し掛けていたら目が覚めた!!と看護士さんを呼んで下さいね」
二人に別れを告げて、そっと病室の扉を少しだけ開けてクルミを出して廊下に誰もいないのを確認してからさっと開けて碧と部屋を出て、再び扉を閉めて突き当たりの非常階段から降りていく。
さ〜て。
杉原氏の妹は何を考えて兄を殺そうとしたんだろうね?
なにぶん証拠がないから、それに関して特に追及は出来ないだろうけど。
安易な好奇心で聞いちゃいけないかもだが、ちょっと気になるなぁ。
治療の料金を払って貰う時に、ちらっと聞けないかな?




