交渉
大崎さんの言葉に碧パパがちょっと困った様に顎を撫でた。
「どなたかが、息子さんを繰り返し呪っている様ですね。それでは厄祓いしても効果が長続きしないでしょう。
だが、呪詛の元を辿ったとしても。辞める様に説得出来れば良いですが、何度も何度も執拗に呪う様な人だったら人の話に耳を傾けるか……。
司法に訴えるならば、普通の警察では呪詛を取り締まれないので退魔協会に依頼を出さないと無理ですよ?」
そうなんだよね〜。
普通の呪詛だったら返したら相手へのダメージが大きくて二回もやれば自滅する筈なんだけどねぇ。性格が変わる呪いなんて珍しいタイプの呪詛だと、肉体的なダメージが呪詛返しで生じるまでどれだけ時間が掛かるかは不明だ。
呪詛のタイプによっては精神系でも返されたら引き篭もりになる事もあると思うんだけど、考えてみたら自力で呪っているなら引き篭もっていても追加で呪えちゃいそうだからねぇ。
性格に問題が生じるタイプの呪詛だったら、返された方の人間の理性も益々劣化していて説得に耳を貸さない状態になっていそうだし。
ただねぇ。
退魔協会に呪詛を掛けた人間まで辿る依頼なんて出したら、厄祓いとは桁が違う費用になる。
「では、せめて呪っている人間まで辿っていただけませんか?!」
大崎さんとやらが碧パパに縋り付く。
なんかこれ、氏子さんだからって無料でサービスしちゃったら後で他の人からも頼まれて大変な事になるんじゃない?
かと言って、氏子さんにがっつり料金を請求するのも難しそう。
どうするんだろ?
「厄祓いは神社としてのいわば公的な業務の一貫なのでいつも通り出来ます。ですが呪詛を辿るのは退魔協会の権限内の業務なので、退魔協会の報酬形態に沿った費用を請求しないと我々があちらから制裁を受ける事になるんですのよ。
退魔協会の報酬形態だとこんな感じになりますわ」
碧ママがしれっと何やら料金表らしき紙を取り出して大崎さんとやらに差し出して見せた。
おお〜。
上手いね。
最初の数件程度は制裁を受けると言う程ではなく、嫌味を言われる程度なんだろうけど、氏子さんたちの問題を全部対処していたらマジでそのうち潰そうと動きかねないよね。
氏子って入会テストがある訳じゃないんだし、退魔協会だったら数十万掛かることを数千円でやって貰えるなんて話が広まったら、諏訪に短期的に引っ越してきて氏子になる人間が全国中から湧いてきかねない。
ちらっと紙を見た大崎さんの目が大きく見開かれた。
これが漫画だったら目が飛び出して描かれただろうね。
「ええと……。
取り敢えず、呪いを辿って誰がやっているのかを見つけるのを協力して貰っていいですか?
説得に応じてくれれば良いのですが、駄目だったら司法に訴えます」
大崎さんが言った。
説得の可能性を諦めないらしい。
説得された程度で諦める人だったら何度も繰り返し呪詛を掛けたりしないし、司法に咎められても最初の一回は見逃して貰えるのを利用して、自由に動ける間に息子さんを物理的に害そうとするんじゃ無いかと思うけどね〜。
まあ、説得するために元へ辿ったら『呪詛の出どころは分かっているんだぞ』と脅せば辞める人も居るかもだけど。
それなりなサイズの都市とは言っても、田舎社会なのだ。コミュニティの一員を呪ったなんて話が広まったら村八分的な社会的制裁が大きい筈。
「じゃあ、ちょうど夕食も終わったところだし、私達が帰り道に呪詛を辿ろうか?
費用は変わらないけど」
碧が碧ママに尋ねた。
両親が泣き付かれて面倒な事になるよりは、私らが帰宅途中でやっちゃう方が時間の節約になるよね。
さっき視たところ、呪詛を掛けた人はそれ程離れていないっぽいので辿るだけならさくっと終わらせられそうだから、私らがやった方が早いよね。
報酬はちゃんと私らが貰いたいけど。
「ああ、お願いしてもいい?
明日は朝から修さんは出掛けなきゃいけないから、そうして貰えると助かるわ。
大崎さん、碧たちが呪っている人の家まで案内しますが、説得するのには関与はしません。
それでよろしいですね?」
碧ママがいつの間にか場を仕切り、大崎さんに念を押した。
「勿論です」
コクコクとおっさんが頭を上下に動かす。
ちなみに呪われた本人は他人事の様に横を向いて欠伸をしていた。
う〜ん。
「では、ちょっと失礼」
簡単に断って、息子さん腕に触れる。
別に触れなくても呪詛を辿るのは出来るけど、呪いの内容を確認したい。
ついでに、呪ってくるような知り合いに心当たりがないかも知っておきたい。




