ちょっと想定外
『見つかりました!』
明日には諏訪に行くからワクチンを打ってもらった獣医が祟られた多頭飼育崩壊現場を祓うのは帰ってきてからかな〜と思っていたら、昼前に青木氏から電話が入った。
「見つかりましたか!」
碧がスマホに飛びついて聞き返す。
『どうやら東京都獣医師会から回ってきたボランティアだったらしく、埼玉に近い場所でした』
青木氏が教えてくれた。
なるほど。どうりでここの近所じゃない雰囲気だった訳だ。
町田とか青梅とか八王子みたいな遠くじゃなくて良かった。
と言うか、そこまで遠かったらボランティアにあの獣医も行かなかったかもだね。
ボランティアなんだから強制はされないだろうし。
「それなりな数の犬が死んでいた筈なので、そこも退魔協会へ連絡させて調査を入れる様に出来ませんかね?」
一応、昨日遠藤氏から電話があった後に青木氏にも連絡をしてみたところ、あちらにも不動産屋の業界団体経由で多頭飼育崩壊に行き当たった時の推奨手続きとして新しく情報が入ってきたと言っていたんだし。
『残念ながら、退魔協会が無料で調査員を送るのは通達が出された以降の案件のみらしいです。
しかもこの案件は現在自治体と地主と元事業主とで誰が土地の清掃にかかる費用を払うかで揉めている最中らしく、退魔協会の依頼費用なんて話題にも上げられないでしょう』
青木氏が更に残念な情報を付け加えた。
まじか〜。
通達が来た後のじゃないと無料調査員を出さないって……。
時間が経過していれば実際に霊障が起きているかハッキリしているだろうと言うのが退魔協会の考えなのかもだが、せめてだったら通達が出された日から3ヶ月以上前ならとか、そんな感じに現実的な期間をオマケで区切って欲しかった。
「まあ、取り敢えず今回は縁がある事ですし、今後は似た様な問題が起きても対処方法が決まっていますから、これだけはこっそり行って大丈夫か確認してきます。
住所を教えてもらえますか?」
碧が溜め息を吐きながら青木氏に告げた。
乗り掛かった船ってやつかね〜。
不便な場所だったら明日諏訪に行く前にレンタルした車で寄っても良いかも?
幸い、青木氏から貰った住所はウチの最寄駅を通る電車をそのまま郊外に向かって乗って行った先だった。
駅からバスに乗んなきゃいけないみたいだけど。
「ついでだから、今から適当に駅のそばでランチでも食べてから清めに行こうか」
碧が提案した。
「いいね!」
明日から諏訪にいるからと生鮮食品を買わなかったら、今日のランチのオカズが無くなっちゃったんだよね。
どこかで計算間違いしてしまったようだ。
今晩は缶詰の魚でパスタを食べようと思っているのだが、ランチと連続で缶詰はなぁ〜となり、出前でも取ろうかと話していたところだったのだ。
と言う事で、外出。
駅のそばのイタリアンで適当なランチを食べ、電車に乗って多頭飼育崩壊現場へ。
残念ながら丁度バスが行った後だったので、面倒くさくなったからタクシーに乗った。
住所は現場より一本大通り沿いの場所を指定したけど。
それでも、タクシーを降りたら微妙に悪臭が漂っている気がした。
次に瞬間には風が吹いて消えていたけど。
「風向き次第で悪臭が漂うのかな?
近所にとっては良い迷惑だろうね」
今の時期だったら風が吹いていればまだエアコン無しでも過ごせるだろうに、この悪臭が入ってくるかもと思ったら窓を開ける気も失せそうだ。
悪臭を撒き散らしている現場の責任者とか地主は、近所の電気代の請求を受けたりしないのかね?
まあ、臭いって騒音と違って計測が難しそうだからなぁ。
損害賠償を訴えても厳しいんだろうね。
と言うか。
私らが穢れを祓ってても、この悪臭はちゃんと清掃しないと消えないだろうし、清掃してもすぐには無くならそうだしで、近所にとっては踏んだり蹴ったりだろう。
こんなに臭かったら引っ越そうと思っても持ち家だったら買い手が現れないだろうし。
賃貸住宅の空き室率も上がってそう。
そんなことを考えながらマスクを取り出し、嵌めながら碧にも差し出した。
「いる?」
「お願い〜」
ありがたそうにマスクを受け取りながら碧が言った。
知り合いの家の鶏糞で悪臭に慣れたかと思ったが、慣れる様なものではないらしい。
意外とマスクって臭いを遮るので、嵌めたら特に問題なくなった。
と言う事で、ナビアプリで目的の住所へ。
「結界はないね」
辿り着いた先を見ながら碧が言った。
ちょっとした森っぽい区画が住宅地と現場を遮っていたのだが、森を回った先にあったのはぐっとヘビーになってマスク越しでも感じられる悪臭を放つ、色々と木片や金網の残骸が散乱している現場だった。
「うわぁ。
後始末の責任を巡って争っているとこうなるのかぁ」
動物たちの死骸と多分目につく糞尿は撤去したのだろうが、まだ犬たちを閉じ込めていたケージやその他諸々の備品というかが残ったままなので、掃除もちゃんとは出来ていないのだろう。
何とも酷い。
「悪霊化しちゃった霊も少しいるけど、ある意味、回収していないって事は蠱毒を作ろうと意図的にやっていた訳じゃ無いって事なのかな?
取り敢えず、清めちゃうね」
碧が足を止めて言った。
今回は敷地に入る鍵も貰っていないが、こんだけの悪臭があったら誰も入ろうとしないと思われたのか、敷地の門にも鍵はついていない。
が、入るのは嫌だったのだろう。
碧が外で祝詞を唱え始めた。
この中に入って残った霊がいないか、確認するのはちょっと嫌なんだけど〜。
どうしよう??




