今後
多頭飼育崩壊の敷地を回り終え、霊的な存在は良いのも悪いのも残っていないのを確認した私はビニール袋に防護服を入れて亜空間収納に突っ込み、代わりに防臭スプレーを取り出して自分に満遍なく吹き付けてから車に戻った。
悪臭って車を返却する時のチェック項目じゃないけど、私らに貸した後に臭くなるなんて悪評が立ってシェアサービスから除名されたりしたら困るからね。
まあ、そうそう悪臭に悩まされる仕事は来ないと期待したいけど。
と言うか、次回からは車での送迎を退魔協会に要求するかなぁ。
退魔協会が『値引きするからさっさと依頼を出せ』と自治体に持ち掛けるんだったら、割高になる運転手付きな送迎なんて駄目と言われそうだけど。
「疲れてるでしょう、帰りは私が運転するよ」
運転席の扉を開けて、うたた寝していたっぽい碧に声を掛ける。
マジで霊力を限界まで搾り取られたんだね。
こんなに疲れている碧を見るのって初めてかも。
「そう?
じゃあお願いね。
最後の駐車だけ、難しそうだったら変わるから」
碧があっさり合意して、運転席から出てきて助手席に回った。
「こう言う地面に染みついた悪臭っていつかは抜けるのかな?」
この土地を今後どうやって使うのかは知らないが、こうも臭かったら選択肢が制限されちゃいそう。
「暫くしたら自然に薄れるんじゃないかな?
子供の頃、知り合いの農家が自分の家でやっている養鶏場の糞尿を年に1回肥料として畑に撒いていたけど、暫くしたら臭いがなくなってたから」
碧が言った。
「え??
鶏の糞を畑に撒くの??
なんかこう、糞が風で飛んだりしたらヤバくない??」
近所で洗濯物を干して仕事に行った後に風向きが変わったりしたら、下手したら鳥の糞が洗濯物に付くかもなんでしょ??
めっちゃ嫌がられそう。
「いや、なんかこう、山間の一部だけ開けた盆地っぽい場所の奥で……周囲にはその知り合いの農家の家と畑しかない様な場所だったから、多分洗濯物は大丈夫だったんじゃないかな?
それに、あの撒いていた物も多分糞尿そのものじゃなくてそれを発酵させて手を加えた物だったんだろうねぇ。
発酵させても臭いってそう簡単に抜けないのか、撒いて直ぐはすごい臭いだったけど」
碧が言った。
そんな人里離れた盆地っぽい場所の事をなんで碧が知っていたんだろ?
『友達』ではなく『知り合い』なようだから、その人の家に遊びに行ったって訳ではないだろうし。第一、農家の娘だとしたら……家の周辺が糞尿塗れで臭い時に友人を遊びに来ないかなんて、絶対に誘わないだろう。
通学路の側だとしてもPTAからクレームが来そうだし。
鍛錬で通るジョギングルートか何かのそばだったのかね?
まあ、それはさておき。
「考えてみたら、ここで使った防御服ってマンションのゴミ捨て場に捨てて大丈夫かな?
変に臭い物を出して『迷惑行為です』なんて貼り紙をされたりしたら居た堪れない気がする」
車をバックさせて方向転換しつつ、思わず心配事を口にした。
いつまでも亜空間収納に入れておくのは嫌なんだけど〜。
「しっかり密封してないとヤバいかもね。
100円ショップで圧縮袋を買ってそれに入れて捨てたら?
防護服とか圧縮袋代も経費として請求できるのか知らないけど」
碧が軽く笑いながら言った。
「そうだね。
車を返したら、帰り道にある100円ショップに寄ろう!」
外で防護服の入れ替えをしちゃいたいし、帰り道で必要なものはゲットしよう!
◆◆◆◆
翌日、ちゃんと圧縮袋に入れて防護服を捨て、月曜日に諏訪へ行く準備として冷蔵庫の整理をしていたら退魔協会の遠藤氏から電話があった。
「私たち、月曜日から諏訪に行きますよ?」
思わず、遠藤氏に伝える。
多頭飼育崩壊の現場を清めるのは協力しても良いんだけど、諏訪に行っている間はそれなりに忙しいから難しいんだよね。
『大丈夫です。
今回は多頭飼育崩壊の現場全般に関する連絡だけですので。
退魔協会と国で話し合った結果、今後は多頭飼育崩壊の現場で複数の犬猫の死亡が確認された場合、退魔協会に連絡したらこちらから無料で調査員を送ることになりました。
問題があると分かった場合は元住民もしくは自治体が浄化の依頼を出すことになります。
これで蠱毒状態の放置は大幅に減るでしょう』
遠藤氏が言った。
「それは良かったです!」
理想としては、多頭飼育崩壊自体が起きないように何か業界団体なり自治体なり国なりが手を打って欲しいところなんだけどね。
でも、ちゃんと調査が早い段階で行われるだけでも大分と違う、筈。
取り敢えず、霊だけでもさっさと天へ帰れる仕組みになったのは喜ばしいことだと思っておこう。
あとは、健康診断で行った獣医がボランティアで関わった現場が分かれば安心なんだけど。




