犬神家の分家
『犬神家の分家と思われし男が、動物保護団体を装って昔だったら殺傷処分されていた不要になった犬や猫を有償で引き取る施設を作り、蠱毒状態にして呪い用の素材を作っていたことが判明しました』
いつもの挨拶を終えた退魔協会の遠藤氏が、さっさと案件の説明に入った。
おやぁ〜?
なんか微妙に思い当たる案件の話が出てきたね。
「その分家の男は既に逮捕されたんですか?」
碧が尋ねる。
『はい。
自治体の方からもしかしたら危険かもと退魔協会の方に連絡が入り、調査の後に田端氏が退魔協会の人間と警察との連携を手配して保護団体の代表者として登録されていた住所に突入させたところ、呪師である事が確認取れてその場で逮捕となりました。
何やら本家の方から制約を科されていたのか、司法取引を持ち掛けてきて色々と話そうとした瞬間に絶命したそうですが』
遠藤氏が碧の質問に答える。
ええ〜〜??
呪師でも司法取引とかって有りなの?!
人を呪い殺す職業の人間は取引で許しちゃダメなんじゃない??
まあ、確かに呪殺を依頼した人間の情報をゲットして複数逮捕して処罰する方が一人の呪師を逮捕するより警察としては重要かもだけど。でも、依頼人が頼んだとは言え、依頼されてそれだけの人数を殺したのは結局のところ呪師なんだから、どっちも許しちゃ駄目だよ!!
とは言え司法取引に応じた顔をして、情報だけ抜き取って呪師を処刑する訳にはいかないだろうけど。
なんともモヤる。
まあ、今回は誰を捕まえて罰するかを天秤に掛ける暇もなく、本家とやらに手を打たれちゃったようだけど。
こっちの世界でも、中々強力な制約魔術的なのがあるんだねぇ。
それはさておき。
「依頼はその蠱毒状態にされた保護団体の跡地の清めですか?」
行った先であの獣医が祟られた場所か、わかると良いんだけど。
『はい。
お願いできますか?』
碧が頷いているので、依頼を受けるのは決まりだね。
「依頼を受けるのは良いですが、こう言った多頭飼育崩壊現場って実質蠱毒状態になっているのが多いですよね?
今回の依頼先の現場は意図して起こした蠱毒で、その犬神家の人間が悪霊化した動物霊を集められる範囲で回収したと思いますが、他の素人が善意でやらかした案件のところなんかも清めないと似たような呪師が悪霊化した使い魔候補を収穫しに集まって来るでしょう。
下手をしたら大陸側の大国から以前テロを起こした死霊使いの様な術師が嬉々として寄ってきそうですが、相変わらず退魔協会は依頼がなければそう言う案件の清めはしないのですか?」
退魔協会もボランティア集団じゃないから、無料でやる訳にはいかないかもだけど、国をせっついて割安価格でやるよと提案するぐらいの事はした方が良いんじゃない?
『……呪師はまだしも、国外から好ましくないタイプの術師が集まって来るのは困りますね。
危険な仕事が不必要に増えないように、国と連携してなんらかの手を打てないか上に提案してみましょう』
ちょっと考えた後に、遠藤氏が答えた。
まあ、そうだよね。
『日本の治安が悪くなる』と言うよりは、『危険な仕事が無闇矢鱈と増えるかも』と言う方が、退魔協会の上層部も重い腰を上げるか。
国のトップや役人の方も、退魔協会に依頼を出す暇もないぐらい即死性の高い呪詛を使う連中が一気に日本国内で増えるかもよ?と脅せば、予算をどこかから捻り出してきそうだよね。
なんだったら、どうせ便乗値上げで殆ど効果が感じられないであろう食品関係の消費税減税なんぞやめて、その予算を使ったらどう?
まあ、考えてみたら消費税減税だって財源は確保していないのだ。
止めたところでヤバい蠱毒化案件のクリーンアップに使えるお金は出てこないかも。
今の首相なんて支持率が高い上に女性だから、気に入らなくて呪詛返しが起きにくい即死性の高い呪師に連絡を取ることを考えている重鎮なんかが与野党両方に沢山いそうだよ〜?
とは言え、彼女は同盟国のアタオカな大統領に日本の尊厳を損なわずに明るく媚びるのが上手いから、現時点では後釜に自分が座りたいと思う人は少ないかもね。




