要注意な変異
「何か分かった?」
歯磨きの方法を教わり、お勧めな歯ブラシと猫用の歯磨き粉のサンプルを受付で一つずつ買い、帰路につこうと道に出たところで碧が聞いてきた。
ちなみに、歯ブラシも歯磨き粉も私が使っている人間用のより10倍ぐらい高かった。いや、歯磨き粉は3倍ぐらいかな? 歯ブラシに関しては安物を買い替える路線なのでマジで一本当たりは10倍以上の値段だった。
売れる数が人間用より限られるとは言え、飼い主業界ってぼったくられまくってない??
まあ、人間用の歯ブラシも電動歯ブラシとかだったらもっと高いけどさ。
それはさておき。
「どうも、あの獣医がボランティアで行った多頭飼育崩壊の現場の一つが蠱毒を作り出すような環境になっていたみたい。
その現場も清めた方が良いと思うんだけど、なんか個人宅というよりもちょっと耕作放棄地っぽい場所を活用した業者の敷地っぽい印象だったから、青木氏に聞いても分からないかも」
碧が顔を顰めた。
「マジ?
虫ならまだしも犬や猫で蠱毒状態ってどんだけ酷い事やってるのよ。
う〜ん、住宅として使わないにしても耕作放棄地だって誰かに貸そうとしてその業者に渡ったんだと思うから、青木さん経由で何か分かるかも?
農地って売るのは色々と面倒だから、売らずに貸した可能性が高いと思うんだよね。
特にそんな多頭飼育崩壊起こすような無能な相手だったら」
あ〜。
確かに少子高齢化の波が農業の現場にも押し寄せているって言うのに、農地を売るのって意外なほど難しいって記事をどこか読んだ気がする。
貸すのだって実は同じぐらい面倒な筈だけど、売るのと違って登記とかの決まりが少ないから、厳密に法令に則してなくてもバレるまで時間がかかるってことでやっちゃってるのかも?
まあ、ちゃんと法律通りの面倒な手続きを経て正式に貸し出したのに、借主が無能で事業が崩壊したんかもだけど。
「事業っぽい感じだったから、保護猫や保護犬を引き取って新しい貰い先を探すNPOだったのかな?
もしくはペットショップで売れなくなっちゃった少し年齢が上になりすぎた子猫や子犬の引き取り業者だったのかも?
どちらにせよ、さっさと避妊や去勢手術をしておけば収拾つかないほどの多頭飼育にならないで済んだだろうに、何をやっていたんだか」
どう考えても捨てられる猫や犬、もしくはペットショップで売れ残っちゃって処分代わりに引き渡された元子犬・元子猫の入荷数の方が、既に幼い愛らしさがなく躾も微妙な犬や猫を引き取りたがる人の数よりも大きいだろうから、よっぽどきっちり受け入れの数を制限しないと崩壊は目に見えている結末になりそう。
とは言え、受け入れないと収入が足りないんだろうけど。
売れなかったペットとか、何らかの理由で買主に捨てられたペットの問題ってマジで難しそう。
「じゃあ、取り敢えずまずは青木さんに多頭飼育崩壊した業者っぽい現場で、何かヤバげな雰囲気になっている場所の話を知らないか聞いてみようか」
碧が溜め息を吐きながら言った。
「だね〜。
なんだったらそこに関係している不動産屋なり持ち主なりから、安くてもいいから依頼の形に出来たら更に良いんだけど」
犬猫の霊を祓うのだったら無料でやっても退魔協会からクレームが入らないと期待したいが。
「だね。
考えてみたら、多頭飼育崩壊って蠱毒もどきになっちゃう事も多そうだから、浄化が必要な現場はどんどん増えていきそう。そんな状況で、現場の話を聞いたら同情してただで清めてくれるお人好しな退魔師だなんて評判になっちゃったら面倒な事になるよね」
碧が顔を顰めながら言った。
「確かに。
最終的には退魔協会に行かざるを得ないような案件を、私らから同情を引けばタダで処理してもらえるなんて話が広まったら、そのうち退魔協会からも釘を刺されそう。その上、無料で手伝っているとそのうち『手伝って当然』みたいな扱いになって、諏訪に行っている時とかに『何でいないんだ!?』みたいな理不尽なクレームをつけられそうだし」
対価なしの善意な手助けって搾取に変異しやすいからねぇ。
気をつけなきゃ。




