難問。
「え〜と、健康診断とワクチンですね〜。
健康診断は血液検査も含めてやりますか?」
隈が凄くて顔色もちょっと悪い獣医が、源之助の体重を測った後に聞いてきた。
「そうですね、参考までに血液検査もお願いします」
碧が頷く。
確かに、病気ではないのは分かっているとは言え、血液のマーカーが異常値になっていて、将来的に病気になる可能性を示唆しているんだったらそれは知っておく必要があるよね。
分かっていれば、碧もそれを感知できる様になるかもだし。
そんな細かい血液検査の結果と病気への繋がりは動物病院とか猫の保護施設とかでバイトでもして、色んなサンプルと触れる事で学ぶ方が現実的そう。
年に一度の血液検査じゃあ前の年の血液検査の結果から悪化した場合に何が変わったかも覚えていられないだろう。
と言うか考えてみたら、血液の病気以外だったら数値の異常自体ははっきりとは分からないかも?
沢山サンプルがいたらどんな感じだったら何が悪いと言う例を目の当たりにできて感知できる様になるかもだけど。
だけど動物病院だって、全然そう言う専門的な勉強をしていない人をバイトに雇ったりしないよねぇ、多分。
ここだって、アシスタントの人が患者の体を抑える手伝いをしたり、不安がっている飼い主の質問に答えたりって感じで動いていて、ある程度は専門知識がありそうだし。
きっと人間で言うところの看護師や助手っぽい資格とかが必要そう。
純粋に受付だけをするんだったら普通のバイトで良いだろうけど、そこまで大きな動物病院だったら血液検査の結果とそれの採血をされた患獣と触れ合えない可能性が高いだろうし。
それはさておき。
獣医が源之助の目や耳の中をささっと調べたあと、口の中も覗いて見た。
「う〜ん、歯槽膿漏はありませんが、ちょっと歯が黄ばんできてますね〜。
歯磨きをしてますか?」
「してないです。
やり方とか、オススメな歯ブラシや歯磨き粉を教えてもらえますか?」
碧が身を乗り出して頼み込む。
やっぱ歯が黄ばんでるかぁ。
欠伸とかする時にくわっと口を開けているんだけど、それなりに距離があるところでやってたり、意外と早く口を閉じてたりであまり歯をマジマジと観察できてないんだよねぇ。
まあ、これから歯磨きをする際に歯をしっかり観察出来るようになるだろう。
多分。
「分かりました。
じゃあ、採血と注射をしましょうか。
ミナトさ〜ん、採血と注射するから手伝ってくれる〜?」
獣医が受付の方に声を掛けた。
「は〜い!」
元気な返事と共に、アシスタントの人がごっついアームガードみたいのを嵌めながら出て来た。
うわぁ。
肘から手の甲までしっかり覆ってる。
逆上した猫や犬に噛まれたり引っ掻かれたりしないようになんだろうなぁ。
野生動物と違って噛まれたらそこから膿んだり病気を移されたりはしないと思いたいが、考えてみたら動物病院に来てるのって病気を疑われるペットが多いんだから、変な病気を持っている可能性はあるか。
まあ、流石に狂犬病はいないと思うが。
日本じゃあ狂犬病のワクチンは必須だし、海外から連れ込むペットも検疫で発病しないのを確認するまで隔離されるのだ。
だけど、考えてみたらタヌキは狂犬病になるって聞いた気もする。そうなったらそんなタヌキに噛まれた猫が狂犬病になっている可能性もゼロではない?
タヌキに噛まれて狂犬病になったなんて話はニュースでも見た事ないけど。
どちらにせよ、動物病院で働くなら狂犬病とか破傷風とかのワクチンは打ってあるんだろう。
患獣から移されたら労災認定は降りるだろうけど、病気になるよりは経費でワクチン代を出して貰って予防する方が良い。
ついでなので、源之助を押さえ込むのを手伝うふりをして獣医の手にどさくさ紛れに触れてみた。
マジで過去に診療した犬か猫に祟られてるならここには今後は来ない方が良いだろうし。
が。
どうやら、違ったっぽい。
ボランティアで多頭飼育崩壊してしまった業者の摘発に同行した際に、運悪く蠱毒状態になってしまっていた敷地に入り、飼い主だった業者の元社長と中を回ってまだ死んでいなかったが助けようがない死にかけの犬たちを安楽死させていたら、祟られてしまったようだ。
いや違うでしょう〜!
犬たちよ、そう言う場合はその元社長を祟りなさいよ!!
まあ、そっちも祟られてて、この獣医は余波を受けただけかもだが。
取り敢えず、厄祓いに行けと勧めておくか。
それほど深刻な祟りではないから、それこそ碧がカリスマ祈祷師をやっている黒崎さんとこの神社に行けば祓える筈。
どうやってワクチンと健康診断と歯磨きの話題から厄祓いに繋げるかは難問だが。




