闇が深そう
愛人なのか恋人なのか知らないが、従兄弟の忘形見って事は一族の人間ってことだからこれからどうするのかと思いながら私と碧が立ち尽くしていたら、金子氏がさっさと仕切り始めた。
「吉田さんは今日付けで退職です。
今すぐアクセス権を全てキャンセルして、彼の持ち物を全て纏めて持たせた上で外へ案内しなさい」
突然の痴情のもつれにびっくりしていたもう一人の秘書の女性(多分)に声を掛け、荷物の整理をさせて社員パスを没収した上で人事かどこかに連絡し、更に警備の人をもう二人呼び出して吉田とか言う呪詛を掛けた元愛人(元恋人?)を追い出した。
この場合、本人たちは愛人と言うよりは恋人のつもりだったのかもだけど、既婚者だったら愛人扱いになるよねぇ。
この後、どうなるんだろうね?
並大抵の精神力じゃあ倍返しされた衝動に勝てないと思うけど。
恋人なんだったら三条氏が面倒を見るべきなのかも?
でも、誤解に基づいた痴情のもつれとは言っても、三条氏を殺そうとした相手だからねぇ。
下手に無防備の一緒にいたら刺されそう。
塩分への渇望に耐えるのが辛くなったら、『死なばともろとも』と無理心中を図ってきても不思議はない気がする。
「依頼で知った情報に関しては個人的なものでも機密契約に含まれると理解して大丈夫ですよね?」
甲府駅まで送る言われて地下の駐車場に向かうエレベーターの中で、三条氏が低い声で尋ねてきた。
「勿論です。
ちなみに、ああ言う状況だったら普通は呪詛の転嫁先に奥様を選びそうなものですが、奥様は実家に暮らしていらっしゃるのですか?」
思わず好奇心が疼いてついでに聞いてしまった。
情報漏洩しないだろうね??なんて失礼な事を聞いてきたのだ。
駄目元で少しはこちらの好奇心を満足させて貰ったっていいよね?
「妻も従姉妹でしてね。
先ほどの海斗の叔母でもあるのだが……私の両親の家の近所に家を持っていて、そこで暮らしている。
仕事関連の呪詛だと思っていたから、まさか妻が呪詛返しの転嫁先だとは思っていなかったが、場所的には妻が転嫁先だったのだろうな」
溜め息を吐いた三条氏が下に到着したエレベーターから出ながら教えてくれた。
マジか〜。
性的嗜好が女性に向いていないから偽装結婚で従姉妹と結婚して。本人的には既婚者なつもりがあまり無いから実は憧れていたか懐いていたかな従兄弟の忘形見な息子に誘われたら、あっさり付き合い始めたってこと?
それ、本当に奥さんは割り切れているんかね?
自分の兄に三条氏が恋心を持っていたか懐いていたかなのを見ていて、似た様な顔(多分?)の自分なら女であっても例外的に愛してくれるんじゃないかと期待して偽装結婚を提案してきたんじゃないの?
まあ、三条氏に聞いたところで答えは知らないだろうし、既に呪詛返しをした後なのに態々これから奥様に会いに行く理由もないから、真実は闇の中だけど。
「一族の若者に手を出したとなったら、我々が口外しなくても社内の他の人間から情報が漏れるのでは?」
碧が指摘する。
だよね〜。
さっきの女性とか、人事の人とか、下に同行した警備の人とか。それなりに状況を推測出来ちゃった人は多いんじゃない?
しかも一族の人間だったら社内の有力者の血族でもありそうだし。
まあ、それでも呪詛を掛けて返されたと言う真実にまで思い至れる人は少ないだろうけど。
でもだからこそ、これで後日に吉田海斗が急逝したら、益々色んな噂が社内に蔓延しそう。
「元々、一族の人間には私と妻の結婚が偽装結婚で子供は期待できないと言う話はしてあった。
海斗の担当変更だって、恋人を直属の部下にするのは不健全な関係になりかねないから変えると人事担当に話したし、海斗にも説明したのだが……。
まさかあの子が私を呪詛で殺そうとするなんて」
三条氏が頭を抱え込んで黙ってしまった。
あらま。
性的嗜好の相手が男性である事は一族内ではある程度オープンにしてたの?
吉田海斗にも一応説明した上で担当変更したのだとしたら……彼が頭に血が昇ると人の話を聞かないタイプなのか、誰かが何か要らんことを彼の耳に囁いたのか。
実は彼にも呪詛が掛かっていたから、ちょっと気になるけど、もう手遅れだよね。
色々オマケ付きだけど短略にもなる様な呪詛だったから、同情するが。それでも致死性の高い呪詛を掛ける選択をした時点でやはり自業自得だからねぇ。
「返ってきた呪詛は厄祓いをしても消えませんが、やったら少しは楽になるかも知れませんね」
吉田海斗の呪詛は転嫁は付いていなかったので、どうせなら死ぬ前に厄祓いをして少なくとも少しは陥れた(のかも知れない)相手に一矢報いても良いかも?
三条氏がハッとしたような顔でこちらを一瞬見たので、私の言いたい事も伝わったと思う。
と言う事で、ちょっと仕返しになるかも知れないことを告げて、我々は車から降りてプラットフォームに向かった。
上手くいけば特急に乗れるかな?




