最後の足掻きも避けなきゃね
「では、その本社ビルへ向かって頂けますか?
オフィスビルの中で歩き回って呪った犯人を探すなり、そちらに着くまでにその人物がオフィスから出るようだったらその後を追い掛けるなりすることになると思いますが」
運転席で静かに待っていた金子氏へ碧がお願いした。
依頼主的には転嫁先が誰かも確認したそうな表情だったが、それは依頼内容に含まれてなかったからね〜。
一族の誰かが三条氏の地位なり財産なりを横取りしたくて呪詛を掛け、呪詛がバレて返された場合は転嫁先になっている三条氏の両親のどちらか(兄弟姉妹の誰かが実家に住んでいるならそちらかも)が死ねば良いと思っているとしたら、今後の安全の為にも知りたいと思っているかもだが。
だけどさ。
しっかりと呪詛だと分かっていて、会社を経営(?)するぐらいの精神力がある三条氏であっても顔が浮腫んでしまうぐらい、つい塩分を摂ってしまうような呪いなのだ。
それが倍返しになると考えると。努力ではなく呪詛に頼るしかないような甲斐性なしだったら、多分呪詛の強制力に勝てなくて、数日中に塩分の過剰摂取で中毒死する可能性が高いと思うよ〜?
とは言え、動けなくなる系の呪いではないから、何とか呪詛の強制力に耐えられる間は普通に出て来て、死なば諸共と言う事でその間に怨みか八つ当たりで三条氏なり転嫁先に選ばれた人なりを道連れ上等と襲う可能性もゼロではないが。
でも、短期間なんだろうからその間だけ、護衛を雇えば良いんじゃない?
金持ちだったらそう言うボディーガードっぽい業種にも伝手はあるでしょう。
上手い事、襲ってきたところを撃退できたら殺人未遂で投獄させるのも可能かもだし。
そんなことを考えながら、タブレットのマップと三条氏に繋がる呪詛の線を確認していたが、結局車が新しそうなオフィスビルの地下駐車場に入っても相手は動いていなかった。
「では、心当たりがある方がいる階層にまず行きましょう。
フロアが違ったらまた移動しますので。
あ、ついでに警備の人にでもそっと着いてきて貰えますかね?
呪詛返しをした際に逆上されても困るので」
車が停まったところで降りながら。三条氏に頼む。
相手が銃を持っていると言うのならまだしも、オフィスにある様な鋏やカッター、精々もしかしたらナイフや包丁で襲ってくる程度のオフィスワーカーだったら私も碧も襲ってくる相手を余裕で無力化出来るけど。だがそんな能力を使っている姿は人に見せたくないからね。
甲府だからねぇ。下手をしたら三条家と藤山家に繋がりがあるとか、藤山家と親しい人が三条家とも交友があったりするかもだし。
事前策を講じておくに越したことはない。
「承知しました」
運転席で話を聞いていた金子氏がそう言って頷き、スマホを取り出して何やら指示を伝え始めた。
やっぱ運転手じゃなくて秘書なのかな?
もしくは運転手も兼ねた秘書とか?
呪詛に抵抗するのに精神力を割かれるのか、足取りが微妙にふらついている三条氏に足並みを揃えてお偉いさん用っぽく見えるエレベーターのところに着いたら、既にそこには警備の制服を着た男性が立っていた。
定年退職後に就職先が無くて『立っていれば良いだけだろう』と警備員になったのではと思われるような高齢者や、ヒョロリとしていて女性社員が重い荷物を運べなくて困っていても手伝えなそうなぐらいなモヤシ君でもなく、そこはかとなく武芸を知っていそうなすっと伸びた背筋と目付きなので、これはちゃんとした護衛が出来る人員っぽいね。
「エレベーターを降りた後は少し下がって着いてきて下さい。
悪事がバレたと悟った社員や役員や大株主な人が突然襲ってくる可能性があるかも知れないので、変な動きを見せる人は誰であれ、撃退できるようにしておくと良いと思います」
一応、こちらが望む対処の関して説明しておく。
流石に露骨に不審者っぽい襲撃者が社内に居るとは思っていない可能性は高いが、顔見知りな役員や三条家の親族だったりしたら、油断していて対応が遅れる可能性があるからね。
まあ、そうなったら金子氏が身を挺して三条氏を守るかもだが。
高齢者と言っても良さげな年の金子氏が呪詛をかけるようなロクデナシに目の前で刺されたら後味悪い。
ここは護衛も職務の一部であろう警備員さんに活躍してもらおう。
そんなことを言っている間にエレベーターが来たので、皆で中に入り。
金子氏が三条氏に目をやったあと、最上階の一つ下のフロアのボタンを押した。
役員フロアって感じだね〜。




