一族の会社ねぇ
翌日、特急の乗るのに丁度いい時間に家を出て甲府へ。
なんと、特急だと1時間なのが、普通だと1時間半なのだ。
しかも何故かどちらも1時間に一本ずつな様子。こう言う時って普通の本数が多いもんじゃないの??
やっぱ諏訪って東京と比べるとかなり交通の便は悪いわ〜。
東京近郊だったら、こないだの鶴巻温泉や鎌倉に行く電車だって1時間に一本よりは多い。
まあ、鎌倉に関してはなんか色々と経由駅に違いがあって分かりにくいと言う問題はあったが。
「1時間に一本の電車だったら、所要時間が同じでも車の方が良かったかも?」
駅でふと見た時刻表の意味する事を分かった私は、思わずスンとなってしまった。
乗り損ねた時のダメージが大き過ぎでしょう!
「まあ、今の時期ならね。
冬だったらスリップ事故とかのリスクが高くなるから、天候次第では電車があるならそっちの方が無難な場合も多いよん」
碧が指摘した。
「う〜ん、依頼で出てかなきゃいけないなら東京のほうが無難だけど、家で符を書いているだけだったら東京より諏訪の方が涼しくて過ごしやすそう?
仕事がどのくらい来るかにもよるけど、夏は諏訪、冬は東京を主たる拠点チックにすると居心地が良いかもね〜」
いくら炎華がいるとしても、やっぱ窓の外が茹だるほど暑いとねぇ。
クーラーをつける必要が無いにしても窓を締めっぱなしって健康上も精神衛生上も良く無いだろし。
とは言え、真冬だって真夏と同じで窓を殆ど開けないけど。
適当に雑談をしつつ甲府駅に着き、待ち合わせ場所に行ったら大きなグレーに車が待っていた。
これかな?
シルバーのミニバンって言われたからね。
近付いていったら、運転席からスーツを着た初老の男性が出てきた。
うわ〜、運転手ってやつかしら?
それとも秘書か執事が運転手も兼ねているのか。
まあ、単に親戚や会社の部下な可能性もあるけど。
「退魔協会からいらしたお二人様でしょうか?」
男性が声を掛けてきた。
「ええ、藤山碧と長谷川凛です」
碧が答える。
「今日の運転手をさせて頂きます金子です。
主人の三条は車の中で待たせて頂いております。
どうぞお乗り下さい」
恭しく扉を開けられたら、ミニバンの中はシートが向かい合わせになっていた。
おや。確かに、三人で話し合いながら車で移動するなら対面型の席の方が良いよね。後ろ向きだと車酔いしそうだが。
後ろ向きな席に座っていた男性がこちらを向いて手を上げた。
「急な依頼を受けて頂き、どうもありがとう。
三条だ」
ちょっと疲れた顔で、顔も少し浮腫んでいるが顔色は特に変ではないようだから、呪詛を掛けられて直ぐに気付いたんだろうね。
考えてみたら、塩分取り過ぎで不調になったら顔色がどう変わるのかは知らないけど。
腎臓か肝臓が悪いと肌の色が黄色くなったり青黒くなると聞いた気はする。
まあ、ここで碧が健康被害を治しちゃったりしたら色々問題になるから、何も知らぬ顔をして呪詛関連だけ対処するのが正解だよね。
「藤山と長谷川です。
では、取り敢えずちょっと車を出して……彼方の方へ10分ほど進んでいただけますか?」
呪詛の線はかなりはっきり視えているから、多分甲府市内だと思う。
移動してどの方向に線が動くかを確認すれば、もっとはっきりするだろう。
急いでタブレットを取り出し、地図の方向を目の前の地形に合わせて、今現在の呪詛の線を描いておく。
「あちら、ですか?
どこに向かえばよろしいのか、目的地が分かるのでしたら教えて頂けますと混雑などを考慮して一番早いルートを選びますが」
運転手が聞き返してきた。
「呪詛の線がどこに繋がるのかを三角測量的に確認するために動いてもらいたいので、取り敢えずあっちの方向に10分程度動いてもらえます?」
10分も動く必要はないかもだけど、信号とかに引っ掛ったらあっさり3分ぐらい潰れるからね。
取り敢えず10分と言っておけばはっきりと二本目の線を確認できるだろう。
ついでなので転嫁先への線も地図に青い色で描いておいた。
誰がとばっちりを受けるところだったか、依頼主が興味を持ったら教えてあげよう。
とは言え、転嫁先の確定は依頼の一部じゃないので物理的にどこそこ近辺にいる人ですねと教えるだけだが。
呪詛を掛けた人間が分かれば、転嫁先の人間もその呪詛の元の人間と同じ知り合いの輪の中から選ばれている可能性が高いので、ある程度推測できる可能性はある。
仕事関連の知り合いが呪詛を掛けていて、転嫁先の人のいる場所も関係会社かなにかのオフィスとかだったらお手上げかもだが。
「10分経ちました。
ここでよろしいですか?」
運転手が停車して声を掛けてきた。
「これから数分掛かるかもなので、周囲に迷惑が掛かりそうでしたらどこかの駐車場に入れて下さい」
路駐して道路の幅を狭めている車ってめっちゃ迷惑だからねぇ。
それが軽自動車ならまだしも、こんな大型なミニバンじゃあ邪魔すぎて誰かから怒りの鉄槌を喰らいかねない。
まあ、日本だったら普通の人はそうそうムカついた路駐の車の中の人間に殴り掛かったりはしないだろうけど。
でも、時々私もスクーターで街中を移動している時に、やたらと渋滞していてどうしたのかと思いつつてれてれとゆっくり進んでいて、原因がどこぞのアホが止めた路駐車だと分かった時なんて、思わず鍵で側面にガリガリガリ!と傷を付けてやりたくなる。
まあ、やらないけどさ。
それはさておき。
呪い主と転嫁先の線をマップで引き、さっきの線との交差地点を確認する。
「呪い主がこの辺、転嫁先にされた不幸な方がこちらの辺りにいるようですが、誰か心当たりはありますか?」
依頼主にマップアプリを見せて尋ねる。
場所が分かっているならそれこそ最適ルートでそこに向かえるからね。
マップ上の線だと、右折禁止とかが分からないから、必ずしも口頭での指示が最短距離になるとは限らない。
「あ〜。
うちの一族の会社の本社ですね。
転嫁先は……実家、かな?」
マップを見た依頼主が、ため息を吐きながら言った。
一族の会社なんてあると、色々妬まれ憎まれるんだね〜。
もっと素朴に暮らすと平和かも?




