塩分取り過ぎは危険
『いつもお世話になっております、退魔協会の遠藤です。
ただ今、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか?』
遠藤氏の声がスピーカーモードにした碧のスマホから流れて来た。
「ええ、大丈夫ですよ」
碧が答える。
明日のは東京に戻る予定だったんだけどね〜。まあ、退魔協会にはもう1週間東京には居ないフリをするつもりだったから、まだ諏訪にいる間に電話掛かってきて良かったかな?
東京に居るのに諏訪から行きやすい場所の依頼を斡旋されても微妙だからねぇ。
とは言え、諏訪からの方が東京より行きやすい場所ってそれ程多い訳ではないと思うけどね。
何と言っても電車系だったら東京の方が圧倒的に便利だから。
諏訪から車で行く想定な距離の場所はそれ程人口密度が高くないわりに藤山家の術師とかがそこそこいるから、あまり仕事はこないと踏んでたんだけど。
『実は甲府市にお住まいの方が呪詛を受けまして。
呪詛をかけた人間が近隣に居るようだったら見つけた上で呪詛返しをして欲しいと依頼を受けました。ちなみに調査員によると転嫁付きの可能性が高いとの事です。
この案件を快適生活ラボのお二方にお願いしても、よろしいでしょうか?』
遠藤氏が言った。
「呪詛を受けた方は車で移動できる体調なんですね?」
碧が確認する。
ゲロゲロ吐きまくってるとか下痢が止まらないとかだったら当然のこと、そうじゃなくても周囲の人間に襲い掛かりたくなっちゃうような凶暴性アップな呪詛でもちょっと一緒に車で移動するのは嫌だよ?
『気を抜くとひたすら塩辛い物を食べたくなる衝動に駆られるそうですが、車での移動に問題は無いそうです。
車もあちらで用意できるとの事です』
遠藤氏が返す。
塩辛い物をひたすら食べたくなる呪詛って……。
長期戦の塩分取り過ぎによる高血圧での自然死っぽい早死に目当てか、それとも自分でコントロール出来ないぐらい塩分を一気に取らせて、塩分の過剰摂取での中毒死目当てか。
長期的な塩分取り過ぎの高血圧とかはまだしも、短期的な塩分取り過ぎは喉が渇いて水分補給をするからそう簡単に死にはしない筈だけど。でも、呪詛で体の欲求をちゃんと受け止められていなかったら、うっかり致死量な塩を摂取する可能性もゼロではないかな?
ちょっと珍しいタイプの呪詛だね。
暑くなってきた時期だし、汗をかくせいで喉が渇いていると思ったら気付きにくい呪詛かも。
呪った相手を見つけるところまで依頼ということは、自分を殺そうとする相手に関してある程度疑惑があるのか、もしくは自分が掛けられた呪詛では返されても加害者が死なずに再度呪ってくるリスクが高いと見ているのか。
加害者が身近な所にいる仕事のパートナーか家族の可能性が高いとなったら、確かにちゃんと調べておかないと呪詛返しで相手がそのうち自滅するだろうとのんびり構えて居られないよね。
碧がこっちに目を向けたので、良いよ〜と口パクして答える。
「分かりました、受けましょう。
電車で行きますので、甲府駅でのピックアップをお願いできますか?」
おや。
電車で行くんだ?
甲府って諏訪と近いのかと思っていたけど。
なんかこう、甲府は武田氏の本拠地で、諏訪は武田に比較的早い段階で攻め込まれた地域と言う印象なんだよね。
戦国時代の隣国チックな場所だとしたら、かなり近いんじゃ無いのかね?
まあ、直通の高速が無かったりしたら車で行きにくいのかもだけど。
依頼の詳細についての話し合いが終わって通話が切れたところで、碧にその点を尋ねる。
「甲府って車で行くより電車のほうが早いの?
近くなのかと思ってたんだけど」
「比較的近くよ?
でも、電車のほうが少し早いし、どうせ依頼人を乗せて動き回らなきゃいけないなら、あっちの運転手付きの車で移動する方が良いでしょ?」
確かにね。
慣れない街でわたわたしながら運転するよりは、プロの運転手(じゃないにしても甲府市在住の誰か)に運転を任せた方が良いか。
タブレットで検索してみたら、諏訪から甲府って電車だと1時間ぐらいで着くのに対し、車だと1時間10分とかそんな感じで、ほぼ同じなようだ。
こちらが駅まで行く時間を考えるとちょっと電車のほうが長く掛かるかも?
まあ、車だと渋滞とかもあるけど。
「じゃあ、東京へ帰るのは明後日って想定で、レンタカーの返却日を伸ばしておくね」
何だったら東京へ帰るのは明々後日でも良いし。
依頼の終わり方が何か後始末的な事を頼まれそうな感じだったら、もう1日諏訪で過ごしても良いかも?
最近の天気予報を見ると大分と暑くなってきているから、諏訪の方が快適かもだしね。
まあ、家の中にいる分には炎華のお陰で快適に涼しいからどっちでも良いんだけどさ。




