誰、これ?
悪霊を祓い終わったところで悠斗君のおでこに軽く触れて、変な後遺症がない事を確認する。
悪霊に取り憑かれて怖いシーンを繰り返し体験させられたり、毒々しい言葉を吹き込まれたりって言うのは良くあることだし、悪霊側に黒魔術師的な素養があったらそれこそ記憶や考え方を歪めるなんて事も出来る可能性だってゼロではないからね。
「大丈夫そう?」
碧が聞いてきた。
「う〜ん、取り敢えず精神や神経に傷跡は無いみたいね。
後は、高熱でどこか肉体的に後遺症がないか、ちらっと確認してあげたらいいかも?」
後遺症の確認と治療は退魔師の責務内じゃないけど、まあ小さな子供が自分の家の蔵で遊んで脳に後遺症が残るとか、その他の問題が起きちゃったら可哀想だからね。
幸い、東条功の霊も子供の魂をぐちゃぐちゃにしようとする程は現当主の血筋へ恨みを抱いてはいなかったようだ。
と言うか、恨みと不満はたっぷりあったけど、特に何をしたら満足するって言うような要求や願いがある訳ではなかったんだよねぇ。
単なる八つ当たり。
まあ定義的な話として、悪霊っていうのは満足できる結果を得られぬままに死んだからって八つ当たりで生者を殺そうとしている存在なんだけどさ。
そんな悠斗君の魂は大丈夫でも、肉体が高熱にさらされたならば後遺症がちょっと心配ではある。
病気なんかで高熱を出すと精巣に問題が起きて子供を作れなくなるなんて事もあるらしいからね。
今だったら色々と治療方法もあるかもだが、精子そのものを作れなくなったら流石に対処法も限られてしまうだろう。
と言うか。
精巣の機能に問題があるのを碧が治せるなんて事が公になったら、物凄い勢いで依頼が来そう。
マジで法改正をして回復師が医療行為を出来るようにするぐらい、権力がある連中が世界中から涌いて出てくるかもだから、これは治したとしても口にも出さない方が良いよね。
何も言わずに碧も悠斗君に触れたが、直ぐに手を引いた。
「ちょっと体力は減っているけど恒久的な後遺症はないみたい」
それは良かった。
「じゃあ、蔵を清めて帰ろうか。
直ぐに終わったら、帰路の電車が混む前に帰れるかも?」
碧が更にそう言いながら廊下へ向かった。
だね。
まだ2時前だ。
さっさと終わらせたら電車が混む前に帰れるかも。
「無事に祓えました。
悠斗君は高熱で体力を使ったからまだ疲れて眠っているようですが、もう暫くしたら目覚めるでしょう」
碧が下で待っていたらしき東条氏に声をかける。
考えてみたら、分家の次男で後継になったのって多分ここにいる東条氏の父親だよね?
年齢的に言って、1970年代に成人していたんだったらもう高齢者な筈。
どれだけ若作りだとしても、悠斗君に年の子供はいないだろう。多分。
子供が出来るタイミング次第では孫の可能性もあるかも。
抜擢された分家の男性は、東条功のやらかしで傾きかけた東条を立て直し、本家に近い女性と結婚して生まれた息子が一人前になったらさっさとリタイアしたのかな?
もしくは東条功の霊に祟り殺されたか。
いや、それこそ自分たちが抜擢されなかった事を僻んだ一族の他の人間に嫌がらせをやられまくって嫌になって身を引いちゃった可能性もあるかも?
そんな事を考えながら碧に続いて階段を降りて行ったら、碧の言葉を聞いた東条氏が勢いよく飛び出してきた。
「では、後は蔵を清めたら駅に送って貰って帰って良いですね?」
階段を駆け上って息子の元へと飛び出していきそうだった東条氏に声をかける。
「ああ、ありがとう。
瀬川、お二人を蔵へ案内して差し上げろ」
当主が一瞬足を止めて、先ほどの執事に指示を出してさっさと上に消えて行った。
まあ悪霊が視えないなら、蔵まで私らを案内して様子を見ていても私らがちゃんと仕事をこなしたかなんて分からないと言えば分からないんだけどさ。
ちょっと子供への溺愛具合が凄いね。
あまり甘やかし過ぎるとロクデナシが出来あがっちゃうよ?
そこそこ厳しく鍛えて育てないと、折角先祖代々伝えてきた資産や父親(か祖父)が必死の思いで元後継者のやらかしから守って立て直してきた家が無くなってしまうかも?
まあ、私らの知ったこっちゃないけど。
そう思いながら執事に案内されて蔵に向かったのだが。
なんか見知らぬ老人が蔵の扉の前に胡座をかいて座り込んでた。
ハンガーストライキじゃないけど、清めるのを邪魔するためにいるのかな?
夜通しそんな穢れだらけな蔵の前にいたら、体調を壊すよ?
碧は中に入る気がないから、そこにいても特に邪魔じゃあ無いし。




