しょうがない説
『怨めしい。
この屋敷も蔵も、本家の跡継ぎたる私のモノだったのに』
背広姿の霊が恨めしげに東条さんが出て行った後を睨みつけ、グリグリグリと悠斗君の頭を踏み躙っている。
ふむ。
跡継ぎ争いで殺されたのかな?
殺人の時効が過ぎているとしたら、遺産相続の異議申し立ての時効はそれよりも更に前に過ぎている筈。それに何と言っても、霊に遺産相続の異議申し立てをする権利はない。
この悪霊に子孫がいたらそちらが相続権を主張できたかもだけど、既に手遅れだよね?
背景を知ったところで何か出来るかは不明だし私が悪霊の子孫の為に関与する必要性もあるかはかなり微妙なところだが、取り敢えず悪霊の頭に手を当てて記憶を読んでいく。
怨みの元を読み解いて、理不尽な悪事を正すと約束することで悪霊が比較的あっさりと気持ちよく昇天してくれることもあるからね。
とは言え、悪霊って思い込みで記憶を書き換えちゃっている事も多いから、ちゃんとしっかり昔の生活記憶まで辿らないと信頼できないんだけどね。
ギリギリと歯軋りしながら(比喩的にだけど)悪霊によって主張される権利が本当に実在するかは、それなりに怪しい。
と言う事で集中して記憶を探っていく。
霊の名前は東条 功。
高度成長期に成人した本家の長男だったが……。
色々と失敗しまくって分家の次男だった東谷 享に尻拭いを押し付け続ける人生だったようだ。
本人は毎回自分の斬新なアイディアを東谷が横取りしたと思っていた様だが、都合が悪いので脇に押しやられたらしき記憶を見ると、上手くいかなくて頭を抱えていた情景が何度も出てきている。実際のところは東条家が破綻しそうな大失策を、ギリギリのところで何度もセーブしてくれてたのが東谷だったようだ。
危険だと助言され、繰り返し反対されたのに強引に押し通した大型取引が石油ショックのせいでいつも以上に大穴を開けて今度こそ一族離散か?!となった時も何とか知り合いの伝手で代替品の入手を出来た東谷が損失を『破産しないで済む』程度まで減らしてくれたのが、本家至上主義な一族の人間にとっても我慢の限界だったらしく。とうとうその失敗の後に東条功が跡取りの座から外され、東谷が東条家に養子として迎え入れられて次期当主に指名されたのだ。
一族の人間に『歴史ある東条家の本家が分家に乗っ取られるなんて許し難い』と訴え続けた東条だったが誰も耳を貸さなかったので、東谷(その時点では既に東条を名乗っていたが)に長男が生まれた日に蔵にあった刀を使って東条功は本家の玄関ロビーで自殺したようだった。
本家を祟っていたならどうしようもなく邪魔だっただろうが、何故か東条は刀に取り憑いただけだった上に当初は薄らとした残留思念程度だったので、誰もそれに気付かず蔵に仕舞われてそのまま放置されていた。
何十年も蔵の中に放置され、他の穢れや怨みを吸収していくうちにパワーアップしてとうとううっかり忍び込んで刀を抜いてみた子供を祟って寝込ませるぐらいまでになったらしい。
とは言え、この『本家乗っ取り』はかなり自業自得というかしょうがないと言うかな流れじゃない?
無能で失脚し、それを恨んで自殺したんじゃあ祟る権利もないと思うなぁ。
「単に昔の東条家の人間が跡継ぎから外されて、嫌がらせに玄関ロビーで刀を使って自殺した後に刀に憑いていた怨みの念ってとこみたい。
蔵のどこかに死体が隠されているとかではないみたい」
碧に調査結果を知らせ、東条功の霊を祓って昇天させる。ちょっとこれは『理不尽な悪事の解消』は約束出来ないから、力業だね〜。
キリスト教なんかだと自殺した霊は天国には行けないって教えているけど、嫌がらせで自殺した霊は昇天後に生まれ変わる際、どの程度カルマにペナルティを科されるんだろうね?
究極に無能な上に傲慢で人の言うことを聞かない迷惑男だったが、誰かを殺したり暴力を振るったと言う訳ではない様なので(多分)、自殺ペナルティが想定以上に大きくない限りは来世も人間として生まれ変われるかも?
まあ、これだけ無能だったら人間に生まれるよりは犬か猫に生まれてペットしてのんびり暮らす方がいい気もするが。
と言うか。
私自身も、来世は可愛がってくれる飼い主の元で飼い猫として暮らすのも悪くないと思う。
ただ、魔術師時代に使った古代魔法陣の機能の一つが、『記憶を持ったまま人間かそれに類する生物に生まれ変わる』って設定っぽいからなぁ。
猫は無理かも。
まあ、もしかしたら単に人間以外の生物に生まれ変わった時は記憶が覚醒する15歳まで生き延びなかったから私が認識していないだけな可能性もゼロではないけど。
今時の日本だったら15歳を超えて長生きする飼い猫もいるからねぇ。
もしかしたらそのうち、ペットとして生まれ変わった状態で記憶が覚醒するかも?
でも、ヨボヨボな老猫として覚醒はちょっと微妙そう。
猫だったら人間の15歳相当(猫だと3〜4歳かな?)で覚醒したいところだね〜。




