取り敢えず
「どしよ?」
生霊に突き飛ばされそうになった人が横断歩道を渡って行くのを見送りながら、思わず碧の方を向いて尋ねた。
「う〜ん……。
確実にこの横断歩道で通り魔的に人を突き飛ばしてるならここを見張っていればあの生霊を捕まえられるかもだけど、いつ来るのか分からないならずっとここにいる訳にもいかないし、場所も変えられたらお手上げだよねぇ」
碧が困った顔で周囲を見回した。
特に花が添えてあるとか、目撃者募集の看板が立っている訳でもないので、ここがあの生霊の狩場ではない気もする。
まあ、今まであまり力が出せなくて、被害者を押しても車にぶつかるほどの勢いが無かったなら……まだ死者が出てないだけかもだけど。
さっきはそれなりに勢いがあった様に感じたから、幽体離脱に慣れて生命力を代償に霊体を動かすのが上手くなってきたのかも。
「取り敢えずここだけでもハネナガに見張っておいて貰って、誰か危険な悪戯をする生霊が出て来たら追跡して貰うことにしようか」
別の場所に行かれたり、意識が目覚めてスポッと体に魂が戻ってしまって本人が何処にいるのか追えなかったらしょうがないって事で。
「そうだね、それが良さげ。
ちなみに、生霊の体の場所がわかった場合、幽体離脱出来ないように縛り付けられるんだっけ?」
碧が聞いてきた。
「黒魔術師の適性があって意図的に出て来てるなら、才能を封じれば出て来なくなると思う。
偶然体から飛び出しちゃったんだったら戻して、少し強めに体に縛りつければなんとかなるかな?」
黒魔術師の才能持ちなんて、最近の転嫁付き呪咀の増加を鑑みるに退魔協会が是非とも退魔師になって欲しいと思う相手かもだが、弟子入り費用を退魔協会が負担してくれる訳じゃないし、何と言っても夢を見ていると思っているにしても気軽に人を殺そうとするような人物が退魔師になるのは危険すぎる。
ここは下手に退魔師の才能があるなら封じておくのが世の為、人の為だろう。
「面白半分に人を殺そうとする様な人が退魔師になるかもなんて、考えるだけでも頭が痛くなりそう」
碧も顔を顰めた。
「だよねぇ。
実質この世界だったらそんな人は完全殺人やり放題になりかねない」
魔力が余程沢山あるんじゃ無い限り、生霊になって色々やっていたらそのうち体のエネルギーが尽きて死ぬだろうが、それがいつになるかは不明だ。
まあ、司法の世界では証拠が皆無な完全犯罪でも、退魔協会としては魔力の痕跡からある程度はわかる。何度もやる様だったらそれなりな人物が犯行を目撃出来た時点で裏から始末するか、国のそう言うことを対処する部署にでも話を流すと思うけど。
そんな部署がどう言う形で存在するかははっきりしないが。とは言え、超常的な力を振るう人間が集まる組織の存在を国が容認しているのだ。
そういった人間を取り締まる組織も絶対にある筈。
通り魔的かも知れない生霊を捕まえる義務は私には無いんだけどね〜。
まあ、私らの家の近くで人がしょっちゅう殺されかけてたら気分が悪い。
出来る範囲でなんとかならないか、頑張ってみよう。
『ハネナガ〜!』
気が向いたら手伝うと言う形の使い魔契約をしている鴉の霊へ呼び掛けながら、召喚する。
忙しいとか気が向かないなら拒否できるぐらい緩い召喚だが、あっさりハネナガが私らの前に現れた。
『どうした?』
『ここで人を走っている車が来る方向に突き飛ばそうとしたり、何か危険な悪戯をしようとしている生霊が出てきたら、そっと後を追って何処に体があるか調べてくれる?』
召喚に応じた料金代わりに魔力を渡しながらお願いしてみる。
『ふむ。
ここ以外でやった場合はどうする?』
ハネナガが聞いてきた。
『追えそうだったら追って?
生霊だよ、普通の人間は無視して良いから』
普通の人間でも通り魔的に人を突き飛ばそうとする人物がここら辺に彷徨いているとは思いたく無いが、少なくとも人間だったら警察が何とかするだろう。
私の善人としての倫理的な義務は警察が手を出せない生霊さえ何とかすれば良い、筈。
あ〜あ、マジで自分のカルマ値がどうなっているのか、確認できたら良いのになぁ。
答え合わせ出来ずに良いカルマを集めようとするのって、終わりがなくて疲れるわぁ〜。




