少し方向転換
「あれ?
ちょっと、怖い」
ジェットコースターと温泉の後、家に帰って香り袋に入れる予定のサイズで符を描き、聖域の雑草を挟んで糊で留めて適当なポプリと一緒に袋に入れてみた。
で。
朝の符作成を終えた後、大家さん夫妻も何処かに出かけたっぽいので碧に屋上への扉を開けてもらって符の効果を試しに端の方へ歩いてみたら。
意外にも、足が竦んだ。
「え?
直接魔力を通さないと効果がないの?」
碧が驚いた様に聞き返す。
「いや、昨日符に魔力を全く通していなかった時よりはマシ。だけど、自分で魔力を通した時は全然怖くなかったのに、今は登る事を考えていると柵に触れようとするのに抵抗感がある感じ」
聖域の雑草を使うと常時効果が発するので無い時との比較がし難いから、昨日は雑草は使わずに自分で魔力を通す形で符を試したのだが。どうやらがっつり魔力を通していたせいで、効果が無闇矢鱈と高くなっていたのかも?
「ちなみに今のそれを持っていたら、ジェットコースターを楽しめそう?」
碧が尋ねる。
「う〜ん、どうだろう?
怖いのは大分と軽減されるけど、楽しめるほど気楽にはなれないかも?
ちょっとこれ持ってて」
符を碧に渡し、柵の方へ戻る。
少しずつ碧から離れる形で柵沿いに歩いていくと、3メートルぐらい離れたところで効果が切れた感じがした。柵を掴む手だけでなく、足の指も竦み始める。
「そのくらいの距離で効果が切れるの?
でも、だったら鞄の中に入れて車の運転をする分には効果が出そうだね」
碧が指摘した。
「あ〜。
ポケットに入れているぐらいの近さじゃないと効果がない様にした上で、もう少し弱くするかな〜。
いや、車の運転時に使って欲しくないとしたら、握ってないとダメにする?
でもそれじゃあ試験中とかに怪しまれて没収されそうだよね」
首から下げてて効果がある様にするとしたら、プレゼンとか資格試験の行きか帰りに車を運転した際に、うっかりスピード感覚がずれたらヤバイよねぇ。
まあ、街中で運転する場合だったらそこまで飛ばすとは思わないけど。郊外とか高速で運転する場合に、うっかり飛ばしすぎて交通事故を起こされても困る。
「まあ、込める魔力でそれだけ露骨に効果が変わるんだったら、符に触れる雑草の範囲を狭くするとか、間に紙を挟むとかしてなんとか魔力の供給を制限したらプラセボよりちょっとマシぐらいに出来るんじゃない?」
碧が笑いながら言った。
「まあねぇ。
ただ、『プラセボよりちょっとマシ』程度で1万円強取るのも少し気が引けるなぁ」
かと言って、作る手間はアイピローの符と殆ど変わらないのに、こちらだけ安くするのも馬鹿らしい。
「こう、何かを言われても傷付かないようにするような紋様とかってないの?」
私に符を返しながら碧が提案してきた。
「忘れっぽくすることで、相手の言葉をクヨクヨと気にしなくなる魔法陣は可能だと思うけど。だけど、プレゼンの時に取引先のお偉いさんが言った事を忘れやすくなるって言うのは……社会人として致命的な気がするからなぁ」
傷付く言葉だけ忘れやすくなるとか、意識にも残らないなんていうような便利なフィルター付きな効果は多分無理だと思う。
「じゃあ、すこ〜しだけ幸福感とか楽しい感覚を思い出すような効果を付け足すとかは?
強過ぎたら中毒性がありそうだからダメだけど、こう……『失敗だったにしても、帰りにケーキでも買って楽しもう』と思えるぐらいな、ちょっと前向きな気分にする効果があると良いと思うんだけど」
碧が首を傾げながら言った。
前向きな気分になる魔法陣ねぇ。
そんなのあったっけ?




