凄いわ
取り敢えず。
ジェットコースターでも効果を確認するが、先に屋上に行ってみる事にした。
クルミを上に出して、大家さん夫妻が外に出ようとしている様子がないのを確認してもらって、階段を登る。
5階の大家さんのフロアを通り過ぎ、屋上へ出る扉に辿り着いたら碧がそっと扉の取手を回そうとしたが、動かなかった。
「うん、やっぱ鍵が掛かってるね〜」
そう言いながら、碧がポケットから何やら小さな道具を取り出して鍵穴に当ててちょこちょこ動かしたら、あっという間にカチャリと言う音がしたと思ったら碧が扉を開けていた。
「鍵開けの技術って退魔協会で研修か何かやってるの?」
退魔協会の仕事で必要になるとは言え、私は研修に誘われた事もないのだが。
「流石に退魔師だったら誰にでも個人宅への侵入を推奨する訳にはいかないからね。
それなりに歴史のある家の幾つかが代々特別に認定を貰って退魔師になる子供に教えてるの。
新しい便利な道具が開発されたら退魔協会が寄越してくるけど、利用したらレポートを送ってくれってせっつかれるから面倒なんだよね〜」
意外な事実を碧が教えてくれた。
へぇぇ。
誰の家にでも不法侵入できちゃっても何も盗まないぐらい経済力がある旧家にだけ、不法侵入の認可というか許可というかを与えているのか。
だけどこないだの世襲政治家の依頼人のことを考えると、旧家の人間だったらアホな事はしないとも思えないけどね。
まあ、政治家とは違い、退魔師は人間社会の理不尽とか暴虐の被害者の怒りと怨みを若い頃から見せつけられて、それらを昇天させなきゃいけない中々ハードな業界なのだ。
『俺様は何をしても許される』的なお花畑の思考回路にはなりにくいかも。
実務をしない妻や母親が傲慢になるだけなのかな?
仕事ではそんな人間社会に闇を見続けなきゃならないのに、家に帰ったら『旧家の奥様な自分』に誇りを持って傲慢になっている女性と向き合わなきゃいけないなんて、ちょっと同情しちゃうね。
だからと言って、愛人を作りまくるのは感心しないが。
それはさておき。
屋上に出た私らは、そっと表通りから反対側の端の方へと進んだ。
「で、どうするの?」
碧が聞いてきた。
「まずは符に魔力を流さない状態であの端の柵の方に近付く。
多分、登ろうかな〜って考えるだけで足が強張って実際に登ろうと手を掛けても力が入らないと思うんだけど。それを先に確認するから、待ってて」
中学の時は、屋上のフェンスに近付くのすら、難しかった。
今度はどうかな〜。
そう思いつつ屋上の端に近付く。
「う〜ん、やっぱ下を覗き込むのが精々だね」
1メートルぐらいのコンクリートの塀の上にスチール(かアルミ?)の柵があるのだが。柵の隙間から下を覗き込むのですら、足の指がゾクゾクするというか強張るというか、露骨な反応がある。
柵を登ろうなんて考えても、辛うじて柵に触れられるが全然腕に力が入らない。
ロープウェイとかは一応平気だから高所恐怖症ではないと思っていたんだけど、やっぱ高いところはちょっと怖い。
これっていつの日か何か非常事態があって、柵を超えて隣のビルに飛び乗らなきゃ死ぬ、なんて事になってもジャンプ出来なくて死んじゃいそうだなぁ。
マジでこの符を使ったら柵に登れそうなのかだけ確認して、もしもの時用に亜空間収納に入れておくと良いかも。
「どう?」
「うん、全然ダメだね。
やっぱ私ってちょっと高所恐怖症の気があるみたい」
と言う事で、符を取り出して、魔力を通す。
…おおぉ??
マジで平気だわ。
いや、少しは足がキュッとする感じはあるが、階段の上から下を見て『落ちたら危ないな〜』って思う程度だ。
柵の間から下を見ても全然平気だし、柵に手を添えて力を込めたら、そのまま登れそう。
「ちょっと! 実際にはそこを登らないよね??」
碧が声掛けてきた。
「登らない、登らない。
でもこれなら、符を使ったら登れそうだから、明日のジェットコースターも平気かも」
恐怖緩和の魔法陣ってこんなに効果があるんだね〜。
流石、高確率で死ぬ様な魔物相手に兵を戦わせたり、場合によっては突撃させる道具の一部だ。
マジでこの魔法陣がうっかり世の中に漏れたら、それこそ自爆テロとかに使われまくりそうだ。
現世の人は殆ど魔力を流せないから、聖域みたいに魔力の籠った素材が入手できる場所を確保していない限りこの魔法陣もそうそう使えない筈だが、狂信者って下手をしたら黒魔術師が信者を洗脳している可能性はあるし、何らかの形で魔力を込めた物をつくれるかも知れないのだ。
この符は世に出すにしても、隠蔽は最高レベルにやっておかないとだね。
まずは明日のジェットコースターでテストだけど。




