矯正よりは排除の方が無難か
「なんかさ、こないだの依頼みたいに呪詛でバカ息子の矯正を試みるって言うのはちょっと意外だったね。
呪詛にもそんな建設的な使い方があったんだ〜って感じで」
久しぶりに晴れたので洗濯をしてブラウスをアイロン掛けしていたら、ニュースを見ていた碧がふとコメントした。
「だね〜。
まあ、あれは矯正目的と言うよりも、本気度を示すための警告っぽい狙いの方が大きかった気もするけど」
残念ながら、それをあの依頼人が気付けたかは……かなり怪しい気がするが。
あれぐらい本気の警告を親から出されたら、それこそ前世だったら側近や侍従がバカな若君を殴ってでも方向修正させる切っ掛けになったかもだなぁ。
まあ、主家や主人への忠誠心があったらだけどさ。
忠誠心が無かったら、敢えて最後の切り捨て段階に進むようにそれとなく若君を唆す可能性もありそう。
自分が養子として跡取りの地位に入ろうとするとか、敵対的なライバル派閥にスキャンダルの仕込みごと売り込むとか、利用方法は色々とあるからね。
そう言う動きをしているって言うのがバレて、切り捨てられる(相手によっては物理的に!)可能性もそこそこ高いけど。
現代日本じゃあ主家に対する忠誠心なんて、あまりなさそうだからな〜。
池谷氏も取り敢えず様子見して、あの依頼人がやっぱ修正は期待できないと見極めたら自分を地盤の後釜にしないかそれとなく親の方に売り込んでみて、ダメそうだったらライバル的な政治家にスキャンダルを買い取らないか持ち掛けそう。
まあ、そこまで冷徹になり切れなくて、単に浅谷裕嗣を見捨てて別の政治家や業界に鞍替えするだけかもだけど。
「ちなみに、意思誘導とかで人格矯正って出来ないの?」
碧が聞いてきた。
「制約魔術で一定の行動が出来ないようにするとか、ちょっとした条件反射的な意思誘導の無意識下への埋め込みは可能か否かって話だったら可能だけど、やれるなんて認めるつもりはないし、やる気もないね〜。
権力者が制約魔術の存在なんて知ったら、そのうち『公務員は違法行為ができないように制約魔術を科すべき』とか『制約魔術なんて危険な術を使える黒魔術師はそれを恣意的に使わないように縛るべき』なんて話になって、泥沼な世界に嵌り込みかねないよ」
術師関連の法律が表立って議論されない日本じゃあマジでグレーな領域でそんな決まりが規制化されかねないから、可能か否かを碧以外と話し合う気もない。
「動く凶器な車を危険運転して人を殺しても、中々殺人扱いしない日本だよ?
多分そう簡単には制約魔術で強制しようなんて話にはならないと思うな。
自発的に受けるよう圧力を掛ける方向に世論操作をするのはあるかもだけど」
碧が応じる。
「どうだろうねぇ。
まあ、こないだの依頼人みたいなアホは黒魔術や呪詛で矯正しようとするよりは、悪事をすっぱ抜いて公職に就けないようにするのが一番じゃ無い?」
それこそ、PTSDとか、カルト宗教に取り込まれて洗脳されちゃった人を助けるような感じだったらまだこっそり黒魔術でなんとかしてあげようかなと考える価値もあるけど。
もしくは過去に見たような、ヤバい事をやらかすタイプが危険な計画を立てているのに、まだ誰も殺していないから大量殺人を止められないなんて場合。こう言う時は法でどうしようもないから、こっそり意思誘導や黒魔術を使った条件付けで人殺しをできないように手を出しても、許されるんじゃないかと思っている。
正義の味方っぽい自分に陶酔しちゃって、手当たり次第に『悪人』を矯正しようとしないように自制しなきゃとは思っているけど。
「そうだね。
まあ、今だったらネットとかで情報を拡散しやすくなったからね。
昔よりはロクデナシを排除しやすい世の中になったかな?」
碧が頷きながら言った。
「まあ、自分がマトモだから他人も誠実だと信じる様な脇が甘い人間だと、その分でっち上げなフェイクニュースや動画で陥れられる可能性も高いけどね〜」
世の中、常に危険で一杯って感じだね。
さて。
アホな依頼人の将来が明るいか暗いかはさておき。
何か来年の快適生活ラボの新商品になるような符の研究でも、してみようかな〜。




