次は無いと思うよ?
「来たか。
入りなさい」
部屋の中から老人の声が聞こえてきた。
「親父?!」
ズカズカと中に入って行った依頼人が声を上げる。
これ、私らも付き合わなきゃいけないの〜?
思わず池谷氏を見やるが、『どうぞ中へ』と身振りされて碧と一緒に渋々と部屋へ入って行った。
アホな息子のスキャンダル垂れ流し生活を是正させる為の愛の鞭ってやつなのかな?
でも、2回目の呪詛ってことは掛けた方は無罪放免にならないんだけどね?
政治家相手にその建前が実行できるかは知らないが。
「呪詛を掛けたのはそちらの方ですね」
取り敢えず、しょうがないので部屋の中に入り、向かい合ったソファに座っていた老人の右側の方を示した。
「なんでだ、親父?!
何故俺を呪う??!」
依頼人が父親(多分?)に怒鳴りつけるように尋ねる。
「お前がいつまで経っても下半身の管理が出来ないからだろうが。
政治家として生きていくなら、どうでも良いような田舎の議員として一生過ごすつもりが無い限り、週刊誌にすっぱ抜かれたら辞任する羽目になるような事はするなと言っているのに、いつまで経っても人の話を聞かない。
政治生命を断ち切る前にもう一度だけチャンスをやったんだ。ありがたく思え」
(推定)父親が重々しく告げた。
これって、あまりに酷くて自分にとばっちりが来そうだったら、政治生命どころか実際の命そのものも断ち切りそう。
「だけど、亮は?!
呪詛返しが何故かあいつに行って、ダメになっちまったんだぞ!!」
依頼人が憤慨したように言った。
誰だか知らないけど、厄祓いで呪詛を返したら転嫁先にされていた人かな?
「まあ、そうなるかと思っていた。
あいつは裕嗣君の愚行を止める役割を任されていたのに、率先してアホな事をして浅谷の名で揉み消すのを楽しんですらいた。
警告したのに聞かぬアホはその償いをして当然だろう」
もう一人の老人が答える。
まあ、老人って言っても60代後半ぐらいかな?
白髪はないし皺もあまりない。
政治家って、老けて見えると弱々しくて健康上の不安もありそうに受け止められて有権者に信頼してもらえないって事で、スキンケアとかにもお金を掛けているのかな?
見栄っ張りなアメリカの大統領あたりだったらスキンケアどころか美容整形にガンガンお金を掛けてそう。大統領になってから国を挙げて推進させている暗号資産でボロ儲けしているらしいから、幾らでもお金はあるだろうしね。
大統領になって忙しくなったから、今はボトックス注射で皺を減らすぐらいにしてるかもだけど。
日本では美容整形手術をするなんて余程目立つアザでもあると言うんじゃない限り、軽薄で見栄っ張りと見做されそうだから、この老政治家二人は多分スキンケアで済ませているだろうけど。
「自分の息子だろう?!
叔父貴は孫の顔を見たくないのか!!」
依頼人が叫ぶ。
どうやら転嫁を喰らった側近モドキは従兄弟だったみたいね。
「性病に罹るようなアホの子はいらん。
孫なら美奈子の方がちゃんと産んでくれているしな」
あっさりと冷徹な答えが返ってきた。
今時の日本で性病なんてそうそう罹らないと思っていたんだけど〜。
国外で売春宿にでも行ったのかね??
それとも実はそれなりにまだ病気が残っているのかな?
そう言えば、『検査目的の献血は絶対にやめましょう』って以前献血した時に大きく赤字で書いてあったなぁ。
そう考えると、実は性病って今でも罹っている(もしくは罹ったと心配している)人がそこそこいるのかな?
ある意味、治療できても病気になったと気付いていなかったら治さないんだから、痒みとかが我慢できなくなって病院に行くまではそれを他の人に移し続けるよね〜。
政治家(若しくはその補佐?)が性病を広めまくったなんて週刊誌にすっぱ抜かれたら、本人だけでなく周囲へのダメージも大きそう。
どうやら父親だったらしき左側の老人は性病の事をどうやってか知って、息子を切り捨てる事にしたようだ。
まあ、直接呪わずに依頼人を呪う際の転嫁先にしただけみたいだけど。
ある意味、転嫁先の方が返せないから危険度と恒久性は高いと言えるかも?
「つまり、お二人は2回に分けて各自1回ずつ呪詛を掛けた、と?」
碧がコホンと咳払いしてから確認した。
「ああ。
政治家の家系なので呪詛のことはそれなりに聞いてはいたものの、眉唾物として本気にしていなかったのですがな。
息子達があまりにも考えなしなので、万が一にでもそれを抑えられればと藁にも縋る思いで試してみたのですよ」
にこやかに右の老人が答える。
60代後半ともなれば男性機能はとっくのとうに終わっているだろうから、呪詛返しがきても構わないんだし、口で注意しても聞かないならこれも一つの選択肢かもねぇ。
将来的に呪詛を他へ掛けられなくなったけど、今までだってバレずにやってきた可能性が高いし、あまり関係ないんだろう。
「では、依頼は終了という事で良いですか?」
依頼人に終了の署名を貰うために紙を出しながら尋ねる。
「ああ。……いや違う、まだ呪詛が残っているだろう! 返してくれ!!」
依頼人が紙をつっ返してきた。
ちっ。
どうせなら、もう一生不能なままで良いんじゃない?
呪詛にかかっていてもほぼノンストップで碧にコナをかけていた事を考えると、父親が本気だって事を忘れてまたそのうち不祥事を起こしかけて、次はそれを揉み消すのではなく本人が不幸な事故で消されちゃうかもだよ?
誘惑を少しでも感じなくなるように、呪詛が掛かったままにした方がいいと思うんだけどなぁ。
まあ、依頼は受領されているから、返さないと本人が終了の署名をする気がないならやるけど。
という事で、呪詛のラインに触れて、それを父親らしき男性へ返す。
「返しました。では署名をお願いします」
見た目には分からないだろうけどね。
確認しにソープへ行こうとか、アホな事を考えないようにね〜?




