難しいね
諏訪に来て、ガガっと頑張って今月分の発送を終わらせた私たちは今日は気分転換も兼ねて、碧お勧めなコースでの半日ウォーキングに出ている。
『あまりハードじゃないコースだから、心配しないで〜』と碧に言われていたのだが。確かに極端に勾配が激しい道のりではないんだけど、スイスイと歩き続けていく碧についていくのがそろそろ厳しくなってきた。
「ごめん、ちょっと、そこの、ベンチで、休ませて……」
少し見晴らしが良い場所に出てきて、私みたいな山歩き弱者用なのか少し幅が広くなっている場所に置いてあるベンチを見て、息も絶え絶えに碧に頼み込んだ。
「良いよ〜。
丁度ここで景色を楽しもうと思ってたしね」
碧がそう答えて、ベンチに座ってウエストポーチからペットボトルを取り出した。
「なんかこう。九州の昇級テストとか、こないだのスキー場とかみたいに、滅茶苦茶ハードじゃない筈なのに。
やっぱ、疲れるわ〜」
なんかもう、ペットボトルを取り出す元気もなくて、ベンチにぐったりと体を投げ出す。
「う〜ん、持久力ってやつかしらね?
でも、街中でウォーキングに行く際には2時間歩いてもそこまで疲れる感じじゃないし。舗装されていない山道を歩くのに、慣れてないのかな?
それともやっぱ坂道がキツい……?」
碧が首を傾げた。
確かに、街中のウォーキングは2時間歩いてもここまで疲れはしないんだよねぇ。
「都内じゃあ1時間ほぼずっと坂を登り続けるルートなんてないからね。
坂と舗装していない道とのダブルパンチって奴なのかも?」
やっと少し呼吸が落ち着いてきたのでスポドリを取り出す。
次回はエナジー補給に良いとかいうゼリーも持ってくるかなぁ。
体力がかなり削られてる感じがする。
「まあ、頑張ろう。
もうちょっと行ったら折り返し地点で、そっちからぐるっと東に回ったらバスで帰れるから」
碧が言った。
今回は碧的にお勧めな目的地が歩いて行って帰ってくるにはちょっと遠かったので、帰りは途中からバスの予定なのだ。
ついでにどっかでランチを食べても良いかもな〜。
ランチとまで言わなくても、お茶とケーキか団子とかでも良いし。
何か甘い物でエネルギーを補充したいと夢想していたら、碧が声を掛けてきた。
「そう言えば、こないだの埼玉の水源地の話。
あの端山家とやらが所有している水源地から水を買っていた醸造所のサイトで、販売停止のお知らせが出てた」
「うん?
あの先に出て行っちゃってた贄役の霊達、醸造所に祟りに行ったの?」
あまり関係のない水源の利用者を祟るぐらいだったら、当主を祟れば良いのに。
「いや、水に問題が出たらしくって。
どうなるのかな〜と思ってネットで調べてたら、掲示板に何をやっても水源地に動物が侵入して喧嘩して血を流したり溺死したりするせいでお酒に使えなくなったって書いてあった。
最初は単にイタチとか野猫に狙われたネズミとかが逃げ込んでそこで殺されたんだろうって話だったんだけど、金網や柵で覆って動物が入らない様にしても動物達が執拗に掘り起こして入ってくるんだって」
碧が微妙な顔をしつつ言った。
うわぁ。
悪霊が周囲の小動物に取り憑いて、水源地で殺し合いをさせてるの?
血が混じるだけでもお酒やミネラルウォーターの味に支障が出るだろうし、死骸が腐ったら健康被害的な問題もあるだろう。
人間を祟って死に追いやるよりもずっと楽そうで……対処しにくそう。
「それって、悪霊の祟りかもと思いつくのに時間が掛かりそうだねぇ。しかも思いついて退魔協会に依頼を出したところで、調査員が来た時に悪霊に取り憑かれた小動物が殺し合っていたとか侵入するために穴を掘っていたとか云うんじゃない限り、悪霊のせいだとはっきりさせるのすら難しくない?」
取り憑かれた小動物が水源地で死にまくっていたら穢れはそれなりに溜まっていきそうだけど、実際にそれを引き起こしている悪霊に遭遇できるかどうかはかなり怪しいよね。
「だよね〜。
電気ショックで普通の動物なら入ってこない様に撃退できても、悪霊に取り憑かれて操作されてたらダメかもだし。
それこそ、動物が痺れて動けなくなる程の電圧は流石に危険だから流せないだろうしねぇ」
碧がお手上げ〜というジェスチャーをしてみせた。
「これは依頼が来ても、絶対に断ろう」
本家が諦めて水源地を関係ない第三者に売り払えば、祟りも収まるよ。
多分。
水源地が汚染されて飲料用の水として使えなかった場合、持ち主は供給義務違反みたいな感じで罰金を払う羽目になるのかな?
それとも単に、収入が無くなるだけなのか。
とばっちりを受ける醸造所やミネラルウォーターのメーカーの為にも、本家が罰金を払う事になるといいね〜。
健二さんとやらは、動物の死骸による水源汚染を心配していたのかな?
それとも別のタイプの汚染を心配していたけど、悪霊化してからどうやって復讐に水源地の弱点を利用できるかと考えていて、今回の方法を思いついたのか。
どちらにせよ。
それなりに本家にとっては痛い結果になりそうだね。
まあ、自業自得かな。
真摯に贄役として亡くなった人たちへ感謝の念を伝えたら、そのうち許して貰えるかもよ〜?




