水源ですかぁ
「本家の当主は特に祟られている様子はなかったけど、もしかして影の当主みたいな黒幕チックな人間がいるの?」
離れに残った霊達に尋ねる。
今日、依頼で会っている本家の人間以外が祟られても依頼の範囲外だけど、依頼主側としては自分たちを祟っている悪霊が我々が離れに来る前に出ていったのかなんて分からないからねぇ。
後から祟りが発覚した際に、我々が離れを清めた際に取り逃したとかイチャモンをつけられたら面倒だ。
『いや。
怒って悪霊化した者達は、贄が必要になった時に順番では無かったのに本家や他の分家の都合で押し込まれたのじゃ。
本家だけでなく、分家を含めた一族全部へ報復を願っていたから、黒幕狙いとはちょっと違うじゃろうの』
爺さん霊が答えた。
おや?
「本家に思い知らせてやるんじゃなかったの?」
碧も首を傾げながら尋ねる。
『報復派の主導的な存在である健二は、本来は次男として水落家長男の補佐をしつつ水源を保守する為の研究や実務を請け負っておったんじゃ。
だが、贄役になる筈だった末娘が水谷家の末っ子と駆け落ちして姿を消した際に、三男が本家の当主の後継と年が近くて仲が良かったせいで、スペアである次男でも良いだろうと贄になるよう本家から圧力をかけられて、ここに押し込まれた。
本当ならば成人かそれに近い一番若い者が贄になる慣いで、健二に順番が回る予定がなかったからこそ扱いはあまり良くなく、自力で奨学金を得て色々と大学とかでも学び、分家の実務もかなりの部分を請け負っていたのじゃがの。
助けられていた筈の長男も、優秀すぎる次男が疎ましかったのか健二を贄にするのにあっさり合意した』
爺さん霊が続ける。
うわ〜。
本家の気まぐれとか個人的な好悪で贄になる順番を変えられたら、そりゃあ恨むだろうねぇ。
贄になる筈の子はその分若い間は家の手伝いとか免除されて楽をしてそうだし。
そんな楽をさせて貰ったのに、いざとなったら一生懸命別の方法で一族に貢献しようと頑張っていた自分が隔離して悪霊を慰めるのに一生を費やせと言われたら納得しにくそう。
でも、閉じ込めた後の扱いが悪くなったのに、閉じ込める可能性がある子供は比較的優遇されて育つって……当主以外の誰かが、離れの予算を中抜きしていたのかな?
長年続いたようだったから、家人として働いている分家の既得権化しちゃって暫くしたら『横領している』と言う意識も無くなっていそうだけど。
『怒り狂って早くに死んでしまい、結局は三輝もここに来ることになったけど。
馬鹿馬鹿しいわよね』
初老な女性の霊が突っ込みをいれた。
『まあ、末莉にもしもの事があった場合には儂がここで写経をするかもという名目で、ご次代と一緒に教育を受けさせて貰っていたんじゃ。
変に順番を変えずに、儂を最初から贄にしておれば健二兄ももっと世の役に立てたかも知れん』
淡々と老人霊が応じる
おやま。
この老人霊がその当主の後継と仲が良かったから一回見逃された三男だったのか。
次男が長生きしなかったせいで結局ここに入ることになったようだけど。
次男は健康管理を敢えてちゃんとしなかったせいで若死にしたのか、それとももっと直接的に首を括ったのか。
どっちなんだろうねぇ。
どうせ霊になってもここから出られないとなると、自殺する意味もない気がするが。
贄にならないと思っていたから、そこら辺はちゃんと話を聞いていなかった可能性もありそう。
そうと知らずに積極的なり消極的なりに死を選んだとしたら、死んだ後もここで搾取されると知った時には更に怒りが募っただろうねぇ。
お陰で益々怒り狂って悪霊化したのかも。
『まあ、健二だけでなく、何人か順番を恣意的に変えられた者や、ここの真実をちゃんと教わらずに騙されたみたいな形で贄にされた者もいたのよねぇ。
そんな者達が、健二が研究していて気付いた水源の問題点について、いつかここから出られたらそれをどうやって最大限に活用するかと暇さえあれば話し合っていたわ』
老婆姿な霊が溜め息を吐きながら言った。
霊なんだから実際には息をしていないから、大きく吐くなんてジェスチャーもない筈なんだけどね。
体の記憶ってやつかな?
『つまり、一族の富の大元である水源を台無しにするつもりで出ていった?』
悪霊の祟りって場合によっては重機を倒したり、鎌鼬を起こしたり出来るけど。
水源を潰すのは、難しくない?
第一、今時だったら水源の利権だけでなく他にも資産と収入源を分散させていて、水源が潰されても平気かもだし。
とは言え、収入源の一つが潰されれば今までのような贅沢は出来なくなるかな?
どうやって霊的存在が水源を潰せるのかは不明だけど。
まあ、卒業式の時の火災警報器のスイッチと違って、プラスチックではなく木材や岩をなんとかするんだったら、少しは影響を与えられるのかも?




