離散してないよね?!
最初に案内された部屋では、そこそこ良い子供用の家具が置かれて、セミダブルのベッドでは小学生ぐらいの子供が青白い顔で寝込んでいた。
胸の上に中学生になったぐらいに見える歳の少年の霊が正座して座り込み、寝込んでいる子供の頭を覗き込みながら不機嫌そうにペシペシと叩いている。
『僕が散々苦しめられて、死にそうな思いをして悪霊達を抑えて、若死にしたのにその成果で富んでるお前達はあの部屋が何かすら知らないなんて、ふざけるな!』
何やら探検に入った本家の孫は、贄役で若くして亡くなった少年の神経を逆撫でするような発言をしたのかな?
と言うか。
こんな若い子供まで贄として差し出されたのか。
もっと大人がやっているのかと思っていたが。前の贄役が亡くなった時点で分家の人間の中で適当に選んでいたんだろうなぁ。
最初はそれなりに一族の繁栄の為、家族の収入の為といった感じで納得していたのかもだが、この少年の時期には既にかなり不満が溜まっていたよう?
しかも自分たちの貢献を本家から忘れ去られていると気づいて激怒したってところなのかね?
苦しんで死んだにしても、ちゃんと感謝の念と共に弔えば昇天しただろうに。
碧に目配せをして、碧が孫の体調を調べている間に、私は少年の霊を捕まえた。
『もう、あなた達が犠牲になって抑えていた悪霊は居なくなったわ。
こんなところでいつ迄も彷徨ってなんて居ないで、感謝の念すら忘れた本家の人間なんて忘れてさっさと昇天して次の人生を楽しんだ方が良いわよ。
ちなみに、君の遺体はちゃんと埋葬された?
あの離れに適当に埋められているならちゃんと対処するように言っておくけど』
少年の霊に語り掛けつつ、記憶を読む。
どうやら戦時中で、前の贄役が栄養失調で体調を崩して早くに亡くなってしまったらしい。
その時点で分家の血を引くちょうど良い歳の女性はおらず(結婚して他家に嫁ぐと資格なし扱いになるし、分家の血を引かない嫁も当然贄にはなれなかった)、成人した男性は全て徴兵に取られていた為にこの少年が贄になったようだ。
結局彼も、食事の状況が改善されず、人手がなかったせいで外へも殆ど出しても貰えず体調がどんどん悪化し、終戦後数年で亡くなってしまったようだが。
『埋葬?
あっという間に死にやがって役立たずめって罵られたけど、一応一族の共同墓地に埋葬されたらしいよ?
離れから出られなかったから詳しいことは知らないけど。
数日前から急に身動きが取れるようになったけど、探してみても家族も墓の場所も見つからなかった』
少年が応じた。
霊が離れから出られないように拘束されていたのが、あの悪霊達を祓ったら自由になった(多分)とは、一体どう言う仕組みだったんだろう?
マジでしっかり離れを調べたいところだねぇ。
しかも数日前から自由に動けるようになったって。
『君以外にも、あの離れに捕らえられていた霊はいるの?』
『贄にされてあそこで死んだら、術に捕らえられてそのまま術の補強部品にされたんだ。
10人ぐらい居たかな?』
おやま。
水源の権利目当てに山の方の村の長一族が皆殺しにされたのが江戸時代末期、彼らが祟ってきたから封じられたのが明治初期だった筈。
つまり、今から大体150年ぐらい前の話だ。ここ10年か20年は贄が居なかったのに10人ぐらいってことは、平均15年ぐらいで贄役の人は亡くなっていたのか。
世代交代よりも少し早いぐらいだけど、良くぞ人が足りなくならなかったね。
下手をしたら贄にならないで済むと思っていたのに兄なり姉なり(それとも弟や妹?)が早く死んでしまったせいで、大人になって独り立ちしてから押し込まれた人もいそうだ。
子供の頃から何も知らず、他を知らないままに贄にされるのも辛そうだけど、外に出て自分の生活と言うものを築いて自由に生きていたのに後から無理やり押し込まれたら、益々その状況への恨みが大きくなりそう。
よくぞまあ、どの霊も本家を人間を害しに出てこなかったもんだね。
今までは術に捕らえられていたんだろうけど、抑えつける対象だった悪霊達が昇天して居なくなった事で術に綻びが生じたんじゃない?
自分の墓を探しに行ったこの少年の霊が特に考え方が柔軟だったのかもだけど、放っておいたら残りの贄の霊達が本家や他の分家の人間を祟り殺しに出てきそう。
なんかこう、『倒れた子供達と離れの除霊』と言う一言で終わるほど楽な依頼じゃないかもな気がしてきた。
ちゃんと全部の悪霊化した贄の人たちの霊が、離れに居るんだろうねぇ……?




