ほぼ信じて無い感じ
「よく来てくれた!」
本館に入って案内された先には、ちょっと恰幅の良いけどそれ程スタイルの悪く無い男性と、だらしなく中年太りな感じの夫婦が待っていた。
「本家の当主である瑞山だ。
こちらはうちの息子の英樹と一緒に離れに入って倒れた圭介君と世羅ちゃんの両親である分家の水谷夫妻だ。
今日は早急に依頼を受けてくれて、ありがとう」
当主だと言う瑞山が鷹揚に挨拶をしてきた。
う〜ん、これがあの穢れまみれだった女性の父親かぁ。
今回倒れた息子が、行くなと言われた離れに遊びに行くぐらいの年齢だとしたら……かなり歳の離れた弟ってことかな?
弟が生まれて彼女が推定跡取りだったポジションから突如蹴り出されたのか、それとも上に兄でもいて、最初から跡取りと言う将来は無かったのか。
まあ、悪霊なんて信じないし贄の役割なんて迷信だと言い切っていたようだから、最初から跡取りだった事は無いのかな?
一族が集まるお盆の時期に旅行に行けるぐらい気軽な立場な様だし。
なんか離れの方からはそれなりに不穏な空気を感じるから、あれを迷信と言い切れるとなるとこの当主には確実に霊感はないようだね。
「藤山と長谷川です。
今回の問題が起きた離れに関して伝わっている、伝承なり言い伝えなりを教えて貰えますか?」
依頼主側が珍しく自己紹介してきたので、碧もこちらの名前を伝えて、離れに関して尋ねる。
「瑞山家には幾つか分家があるのだが、その一つである水落家は何故かほぼ毎世代で体の弱い人間が生まれてね。
可哀想だからと言う事であの離れに住ませてやっていたんだ。
ただまあ、体が弱いからか病気がちなので、基本的に世話をする者以外とは顔を合わすこともなくて隔離されていたようだが。
これに関しては私が若い頃に交通事故で亡くなった両親と兄が主に手配に関与していたので、私も詳しいことは知らない。
流石にその時点で離れに住んでいた者は追い出さなかったが、その人物が亡くなった後は別に新しくあそこに人を迎える必要もないだろうとここ数年は放置してあったんだ。
次に離れに入れるようにと連れてこられた娘は、十分健康そうだったしな」
当主が説明を始めた。
うわ〜。
交通事故で前当主夫妻と跡取りだった長男(多分)が亡くなったせいで、悪霊と贄に関しての情報が引き継がれなかったんだ!?
それにしては、あの悪霊憑きの女性は見事に悪霊に取り憑かれていたけど。
分家側にも情報があって、悪霊を贄に封じる手続きはそっちでやっていたのかな?
なのに連れてきたら要らんと追い返されたようだけど。
「今は誰も居ない、昔に病人を住まわせていただけの離れなのに、子供へ近づかないようにと言い聞かせていたのは何故ですか?」
子供が『勝手に忍び込んだ』と依頼の情報にはあった筈。
「あそこはどうも換気が悪くてカビでも生えているのか、入ると寒気がする様になるのだ。
どう考えても健康に悪そうだから、子供たちを含めた家人には近づかない様にと言ってあったのだが。
そのうち取り壊してしまおうと思っていたものの、どうやらいつの間にか変な悪霊か何かが取り憑いていたらしい」
当主が答えた。
離れに近いたら寒気がする程度の生存本能はあるらしいね?
「ちなみに、子供たちが倒れて退魔協会を頼ったのはどうしてですか?
お話を伺う限り、何か知られざる病原菌かカビが原因だと判断されるかと思いましたが」
「分家のジジイどもが、『祟りじゃ!!』と煩いのでな。
ニエを出さないのがいけないとか何とか、支離滅裂な事を唾を飛ばす勢いで主張するから退魔協会に連絡してみたら、本当に何やら悪霊が居ると言われて、驚いた。
だがまあ、未知のカビよりは悪霊の方が解決は簡単だろう?
是非、子供達を治してくれ。
ついでに、あの離れを壊す際に事故など起きても困るから、あちらも清めてくれ」
当主が私の質問に答えた。
この当主、実は悪霊とか祟り自体を信じてないんじゃない?
それとも、呪いとかは経験があるのかな?
よくぞ退魔協会の連絡先を捨てずに持っていたねと言いたくなるぐらいお気楽な口調だ。
悪霊だと分かったところでそう簡単に祓えるとも限らないんだよ?
それこそあんたの先祖は祟られて困った時に怪しげな陰陽師に依頼して、祓えなかったから未来永劫分家の人間を贄として犠牲にする事に合意するぐらいお手上げ状態だったんだし。
まあ、取り敢えず。
悪霊として今暴れているのは大元の殺された人達ではなくて、彼らを抑えつける為に贄として捨て駒にされた分家の人たちだろうからね。
人数がもっとずっと少ない筈。
問題なく祓えるとは思う。
だけど、先に子供達を見るべきかな?




