秘密だよ?
さて、どうするか。
ここで無視して、後でこの女性が悪霊に負けて人を殺しちゃったら……後味が悪いし、私のカルマにも悪影響がありそうだよねぇ。やっぱ、お金を貰えなければ困った人を助けないと言うスタンスは人間としてどうかとも思うし。
退魔協会は……お金さえ取れば、フリーランスで除霊してもボランティアでやるの程、嫌がらないと聞いた気がする。
要は、相場を破壊しなければ良いと言う事だ。
フリーランスで仕事をして、報酬の受け取りや、除霊が完了して喉元過ぎたらなんとやらで『詐欺に遭った?!』と訴えてきた依頼主とかと揉めて問題が起きても助けてくれないだけで。
言うなれば退魔協会の競合相手になるんだから、ガンガンやりまくったら敢えて依頼主と揉める様に裏から何か仕込まれても不思議は無いと思うけど。
でも旅行先で縋られた程度だったら、料金を取りさえすれば問題はないだろう。
多分。
一応、東京に帰ったあとに、遠藤氏へ一報入れておく方が無難かもだが。
「そうですねぇ。
基本的に、業界団体での標準報酬額を頂かないと相場荒らしとして睨まれるので、◯十万円程頂きたいのですが」
私らが受け取る平均的な報酬額を悪霊憑きの女性に伝える。
退魔協会による中抜き前だけど、特級術師としての上乗せもある程度ある筈だから、退魔協会に頼んでもこんなものなんじゃないかな?
昔、徳の高い陰陽師とやらが祓えなかったらしいので、それなりに強力な悪霊なんだろうし。
まあ、私が視た感じだと、取り憑き先のこの女性を制御するのにかなりエネルギーを費やしているのか、そこまで強力と言う印象はない。
女性も離れに幽閉されて粗食と運動不足に悩まされるのではなく、ほぼ自由に(多分)出歩けて人生を謳歌しているお陰で、精神力がそこそこあるのかな?
もしくは元より退魔師の才能が微妙ながらでも持っていて、抵抗力が強いのか。
「分かりました。
銀行振り込みで良いですか?
電子マネーでも結構ですが。クレジットカードは流石に無理ですよね?」
すちゃっとスマホを取り出して女性が聞いてきた。
最近は大きな金額でもやり取りが手軽になったよね〜。
とは言え、赤の他人に銀行口座お教えるのも、スマホで通信っぽい事をするのも嫌かな。
出来ればこちらの名前や電話番号とかは知られずに済ませたいし。
後から変なクレームをつけてきたり、反対に知り合いなどに『本物の陰陽師よ! 頼りになるわ!』なんて話を広められても困る。
「現金一括でお願いします。
どうせここでやる訳にはいかないし、取り敢えず温泉街に戻ったら銀行からお金を引き落としておいて、夕食後にちょっと散歩に行くとでも言うことにして落ち合いましょうか。
9時に、宿から出て左側のコンビニの外でどうです?」
考えてみたら、街中を歩き回った時に東京のメガバンクを見た記憶がない。そう考えると北海道在住じゃない限り多分コンビニのATMでお金を下ろすんだろうし、丁度いいよね?
「そうですね、ではそれでお願いします」
女性が頷いた。
今日に夕食は7時から予約してある宿での会席料理なので、9時には食べ終わっている筈。
初日のメニューとどう違うのか知らないが、きっと美味しいだろう。
このワイナリーでランチを食べるから、頑張って歩き回った上で温泉でも汗をかかないと、マジで東京に戻った時に体重計に乗るのが怖いなぁ。
取り敢えず。
9時までの間にうっかり本家の女性を殺しちゃわない様に、少しだけ悪霊に枷をかけておくかな。
中途半端に手を出すとあまり良くないんだけど、この女性のセルフコントロールを助ける感じに少し力を貸しておこう。
「では、少し手を出して下さい」
ワインの試飲を楽しんでいる他の人たちから見えにくい様に体で隠しながら、女性に手を差し出して声を掛ける。
「はい……?」
ちょっと躊躇しながらだったが、女性が手を出してきた。
さっきは助けてくれとこっちの手を掴んだくせに、落ち着いてからこちらが手を出せと言うと躊躇するのね〜。
まあ、気持ちは分からないでもないけど。
日本ってあまり他の人に触れないよね。
セクハラ親父とかは別として。
でもまあ、取り敢えず。
悪霊を弱め、女性の精神力を少し補強し。
更に私の事を他の人間に言わない様に意思誘導も埋め込んでおく。
同行者である本家の女性は悪霊なんて信じていないと言う話なのだ。
下手に『これで悪霊が何とかなるわ!』なんて喜びのあまり口にしたら、却って詐欺師に引っ掛かったのではないかと騒がれかねない。
私のことは秘密でお願いね〜。




