おやま
ハイキングから帰り、予約したカレー(美味しかった)を食べ、街を歩き回り、足湯なども楽しみ。
夕方にお寿司の店に入り、海鮮をたっぷり堪能した後、宿でまたもや露天風呂を楽しんでぐっすり眠り、翌朝の朝食後にワイナリーへのミニガイドツアーのバスの乗り場の行ったら……あの穢れ・悪霊憑き二人組が居た。
うわ〜。
バスの空気が悪くなるから一緒は遠慮して欲しかったんだけど〜。
日帰りじゃ無かったのか。
ちっ。
残念な事に私らの泊まっていた宿に来る前に何ヶ所かホテルとかに寄ったらしきバスには既にそれなりに人が乗客が居たため、両親の横に通路を挟んであの二人組が座ることになってしまった。
私は後ろからそれを眺めるだけ。
悪霊憑きの女性はチラチラ私を見ていたが、どうやら穢れ付きの方は何も感じてないのか、朗らかに母に声をかけて北海道の自然や食事の素晴らしさに関して盛り上がっていた。
母親の方もそれなりに社交的な性格だからか、楽しげに話している。
初日に温泉で彼女が入ってきた時に出て行こうと言ったのは、偶然だったのかな?
まあ、自然のマイナスイオンや温泉が少し穢れを清めたのか、初日よりは状態がマシだしね。
とは言え、一緒のバスの中で悪霊憑きが居るとかなり微妙な心境だわ〜。
なんかこう……べったり蜘蛛の巣を頭や顔に貼り付けた人が目の前に居るような感じで、落とした方が良いんじゃない??と提案したくなる。薄い糸だから他の人には見えてないから善意だろうとそれを剥がす為に触れたら何やってんの??と凝視されそうな、微妙さ。
まあ、明日には札幌に行くんだから、兄貴達の披露宴ランチに招かれた友人だとでも言うんじゃない限り、今日限りの縁なんだけどね。
披露宴ランチに来てたって、それこそ親しい友人なんだったら怜子さんなり聖子さんなりが祓えばいいだろう。
そんな事を考えつつ、周囲の景色を楽しんでいたらワイナリーに着いた。
スタッフがワイナリーの案内に行きま〜すと声をかけて皆を案内始めたら、そのまま意気投合した穢れ付き女性と両親が一緒に動き始め、私と悪霊憑き女性が後ろから着いていく形になった。
「ワインの試飲タイムの後に、ちょっとお話ししませんか?」
悪霊憑き女性がそっと声を掛けてきた。
え〜?
何で私と話したいの?
悪霊憑きなのがバレたから殺す!なんてアホな事を考えている訳じゃないよね??
と言うか、どのくらい悪霊が言動をコントロールしているんだろ、この人?
まあ、どちらにせよ気になるし、付き合うか。
「良いですよ。
と言うか、試飲タイムにそっと話しませんか?
流石に両親と別れて赤の他人と散策をと言うのも不自然ですし」
「ありがとうございます」
悪霊憑きな人が態々なんだって声を掛けてくるのか気になって、折角のミニツアーもあまり集中できなかった。
まあ、30分程度のお手軽なガイドツアーだったんだけどね。
で、『皆様お楽しみの、試飲タイムです!』と言われたところで、適当にグラスを一つ受け取って楽しんでいるような顔をしつつ、ちょっと他の参加者達から離れたコーナーで悪霊憑きの女性と話が盛り上がっているような顔をして向き合った。
「で?
何のご用でしょうか?」
ぐいっとワインを飲み干して、女性が私を見た。
「どうか私の頭がおかしいとか思わないで欲しいのですが……。もしかして、貴女は陰陽師ですか?」
おやぁ?
ちょっと想定外な質問だね。
「まあ、京都に母体がある業界団体の一員ではありますが、どうしてそれを知りたいんです?」
なんか詐欺師になったような気分になりながら答える。
京都に母体がある業界団体なんて幾らでもありそうだよねぇ。
それに退魔協会って東京が本部……だよね??
それとも実はあの立派な都内の建物は、東京支部?
どちらにせよ。私の微妙な言い回しに気付かなかったのか、気にする精神的余裕もないのか、悪霊憑きの女性は私の返事に頷くと、話を続けた。
「実は、私達の一族は祟られているんです。
本当なら本家が祟られる筈だったのに、問題が起きた時に徳の高い陰陽師の方に悪霊へ制約を課して貰ったお陰で、本家ではなく分家の人間が贄として祟られる羽目になって。
私が当代の贄で、昔だったら本家の離れに幽閉されていたでしょう。
亜樹は本家の人間ですが、悪霊なんて信じていなくて私を離れから連れ出して、あちこちに誘ってくれているんです。
だけど離れを出て以来、悪霊が彼女や他の本家の人間を殺したいって物凄く執拗に訴えていて。
そのうち誰かを殺しちゃいそうで、怖いんです」
女性が語り始めた。
大変だね〜。
と言うか、陰陽師とやらが、分家の人間を贄にしてスポンサーである本家を守ったって……そんな行動をする人間を『徳が高い』って言うの??
お金があるなら、もう一度退魔協会に頼めば良いのに。特級術師の料金を払う気があれば、確実に祓えるよ〜?
一級術師でも多分大丈夫だと思うな。
分家の人間を犠牲にすれば本家は問題なく暮らせるって事で、そんな金を払う気がないのかなぁ。
分家自体にしても、娘一人を贄として提供する事で本家から経済的支援を得られているなら、不満が無くて現状維持のまま放置しているんだろうね。
長期的に考えたら、分家への支援より退魔協会へ払う料金の方が少ない筈だけど、その離れか悪霊が封じられていた場所かに白骨でも埋まっているんかな?
それはさておき。
「なるほど。
で、何故私に声を掛けてきたんです?」
「私に憑いた悪霊を祓ってくれませんか?!
悪霊が貴女のことを凄く警戒しているので、何とかできるんじゃ無いかと思うんです!!
お金なら払いますから!」
女性が私の手を握って懇願してきた。
おお〜。
悪霊が嫌がっている事を感じ取って敢えて私に声を掛けるとは、中々精神力が強いみたいだねぇ。
本当だったら退魔協会に依頼を出せと言うべきなんだけど。
依頼を出して受理されるのを待っている間にうっかり旅行中に本家の女性な同行者を殺しちゃったら可哀想だし、私も後味が悪いからなぁ。
昨日、ハイキングでルートから外れようとしたのもどこかで突き落とすとか岩で頭を殴ろうとかさせたがる悪霊に流されかけていたのだとしたら、そこそこ切実に危険かも。
まあ、単に本人か同行者が方向音痴なだけな可能性もあるけど。
さて。どうするかなぁ。




