道は逸れずに進みましょう
登山口から山道に入って行くと、流石現地の観光協会で紹介されていた素人用のハイキングルート。
他にも数人の観光客(多分)が歩いているのが見える。
リピート客は本格派が多いのか、ハイキングコースのウェブサイトの上の方はちょっとハードで丸一日かかりそうなルートがバンバンバン!と出ていたけどね。
私らが行くのは、下から2番目にあった比較的楽なルートだ。
最初は沢沿いに進む。そよ風が爽快だ。
今年の夏は比較的過ごしやすくて良かったわ〜。
ヨーロッパとかでは滅茶苦茶暑い様だけど。
来年は日本の番だったりするのかな?
あんまり暑すぎるとマジで地球の環境が壊れちゃいそうで怖い。
何年か前の映画で、北極と南極の氷が溶け過ぎたせいで赤道から北極へ流れる海流が止まってしまって地球がアイスボール化してしまうというパニック映画があった。
中々怖い話だったが、現実にはあり得ないよね〜と思って見た記憶があるのだが、先日の新聞に海流を動かす動力になっている塩分濃度の差か何かが、想定以上な早さで減少しているって掲載されていた。
つまり。核戦争より先に、天候の大変動による人類社会への壊滅的ダメージが起きるかも??
そう言う記事や、史上初な大雨被害とか、熱波とそれによる山火事頻発などのニュースを見ていると、マジで近いうちに白龍さまに避難用の境界門を探して貰う方が良さげな気がしてくる。
まあ、それはさておき。
沢沿いに進んで暫くしてから、飛び石を使って沢を渡るところに出てきた。
「これ、滑って転んだら悲惨そうだなぁ」
父親が足元を見ながら言った。
「まあ、今の時期だったら歩いている間に乾くでしょうし、着替えは宿にあるから戻ってから洗濯だけ頼めばなんとかなるわよ」
母親があっさりそう言い切って、飛び石の上を身軽に歩いて渡った。
うわぁ〜。
私はちょっとこれの点では父親寄りで、ついつい心配が先にきて足が止まっちゃう。
とは言え、確かに今の時期だったら滑って沢で尻餅ついても極端に問題はないからね。
さっさと進もう。
「おっと」
私の後に続いた父親が少しバランスを崩したが、誰も濡れずに無事沢を越えられた。
そのあとは細い踏み固められた登山道らしき草のない場所を歩いて登る。
舗装されてないと、本当に道なのかちょっと心配になってくるが、ところどころで標識があるし、よく見たら時々木にピンクのテープが巻かれている。
登山口から入った時には他にハイキングしていた人がそれなりにいた気がしたんだけど、登っている間に間隔が空いて、時折しか見えなくなって山歩きに慣れていない身としては、心配になるんだよね〜。
でもまあ、色々とそんな素人の心配対策が講じられているので、大丈夫でしょう。
多分。
「綺麗ね〜」
50分ぐらい歩いたところで、見晴台にたどり着いた。
下に温泉街が見える。正面に別の山の尾根があり、植栽の元気一杯な緑が辺り一体にある感じで、凄く自然の生命力を感じられて気持ちが良い。
「やっぱ山って良いね!
東京に居ても、高尾山辺りまで時々でも行くべきかな?」
まあ、高尾山まで行かなくても、それこそ鶴巻温泉のハイキングコースでも良いかも?
隣駅から鶴巻温泉までハイキングして、温泉とランチを楽しんで帰るんでも良いかもだよね。
秋になったら碧を誘ってまた行こうかな。
「そうだね、やっぱ普段からもう少し自然な環境へ足を伸ばすべきだよね!
さて。山頂まであと30分弱だっけ?
頑張ろう」
父親が伸びをして大きく息を吸い、再び登山道を歩き始めた。
流石山頂への道。
ちょっとさっきまでよりもきつい勾配かも。
でもまあ、このくらいの方が達成感があるし。
そう疲れてきた足の筋肉に言い聞かせて頑張って30分弱歩いたら、山頂らしき少し開かれた場所についた。
木製のベンチがあるけど、木が茂っているから景色はそれほど見えない。
あら。
なんか山頂っていうイメージじゃないけど、やっぱ低い目の素人でも苦労し過ぎないハイキングルートだとこんな感じになるのか。
と言う事で、お茶を飲みながら一休み。
私らの前にいた人たちは、すれ違いに出ていった。
「そう言えば、ランチにおすすめなカレー店の予約を入れておいたから、そこに行くんで良いかな?
会社の部下に勧められたんだ」
父親が突然言い出した。
「カレー屋に予約なんて必要なの?
変わってるね〜。
でもまあ、美味しいなら大歓迎だよん。
ありがとね」
美味しい店を教えてくれるような部下がいるんだね〜。
と言うか、部下に美味しい店を聞くぐらい楽しみにしてくれていたんだね。良かった。
「これだけ動けば、たっぷり食べてもカロリーを消費出来そうよね。
明日はワイナリーだから今日ほどは歩かないでしょうし。
後でカレーを食べ終わったら街の周りを歩き回りましょう」
母親が立ち上がりながら言った。
「だね〜」
温泉に沢山入ったらそれだけでもカロリーを消費するらしいしね。
そんな事を考えながら来たルートを引き返して帰ろうとしたら、先ほど見かけた穢れまみれ女性と悪霊憑き女性が見晴台から出てきたところなのが目に入った。
何故かこっちではなく、別の方向へ進もうとしている。
ちょっと木の下に下草がなくて道っぽく見えなくもない場所ではあるけど、こっちが山頂って標識に気付かなかったのかな?
「山頂はこっちですよ〜」
母親が二人組に声を掛ける。
二人が振り返ってこちらを見て、何やらちょっと気恥ずかしげに笑いながらこちらへ方向転換した。
「ありがとうございます〜。
方向音痴で、ついつい道を間違えちゃうんですよ〜」
やっぱ、二人だけで来てるんだ?
ヤバいことにならないと良いんだけど……。




