不幸な事故ですかぁ
結局、私達は依頼人と加害者の家族が揉めているのを暫く眺めた後、そっと依頼主から依頼終了の署名を貰い、タクシーを呼んで帰った。
最寄り駅まで送ってくれても良いんだけどね〜とも思ったのだが、家令は揉めている当主一家の話し合いの場から抜けられないようだったし、依頼主の運転手は依頼主がブチ切れて即刻で帰ると言い出す可能性があるから私らを送る為にあの家から離れる訳にはいかなかったのだろう。
護衛だとしたら依頼主からそこまで離れちゃ駄目だろうし。
いい加減疲れたので、昨日は帰ったらごく短く依頼完了の連絡を遠藤氏に入れて、軽く夕食を食べて寝た。
で、今朝になって思ったんだけど。
「今回みたいに、旧家っぽくって呪詛の実効性を知っている人間が確信犯的に呪詛を使った場合でも、最初の一回は警告だけって甘すぎない?
自白っぽく『どうなるか分かっていて呪詛を掛けた』的な事を言っていたんだし、ああ言うケースなら一発でアウトにすべきだと思うんだけど」
朝食を食べながら碧に言う。
「まあねぇ。
ただ、そうなると要は金と権力がある家の人間を庶民より不利に扱えって話だから、難しいんじゃないかな?
狙われる側だったら是非と思っても、自分が呪詛を使う可能性もあると考えると処罰をすり抜けられる最初の一回を捨てるのは勿体無いってところなのか、時々話が持ち上がっても毎回それとなく反対な『お気持ち』が多数寄せられて潰されるらしいよ」
碧が顔を顰めながら言った。
「自分たちが呪詛の被害者になるかもなのに、自分が使う機会を手放したくないから現状維持を主張するんだ?」
自分は狙われないと自信があるのか、狙われても手遅れになる前にちゃんと気付いて呪詛返しが出来ると信じているのか。
直接具合が悪くなるタイプだけじゃなくて、運が悪くなるとか頭の回転が鈍くなると言った呪詛もあるんだけどね〜。
「と言うか、金や権力や伝手のある人間を呪った場合って、呪詛返しで死ななくても大抵の加害者はもう一度呪詛を使える前の不幸な事故で死んじゃう事が多いしね」
碧が何とも微妙な事実を教えてくれた。
不幸な事故かぁ。
「確かに、司法に頼るより確実ではあるだろうけど。
微妙〜」
超法規的に報復していたら、血で血を洗う世界になりかねないよ?
「まあ、一応退魔協会の方に、明らかにあの加害者は呪詛の実効性に自信を持っていたみたいだから、絶対に過去に呪詛を使っていると思うって伝えておこうか。
そう言う場合に、見つからなきゃオッケーとならない様に法を変える方向へ働きかけてみよう」
碧が提案し、電話に向かった。
そうだよね、本気で探せばどこかに証拠があるのに、探し方が足りなくてすり抜け出来ちゃうのは許せないでしょう。
と言う事で。
「昨日の呪詛の件なんですが」
碧が遠藤氏に電話を掛けて、話題を持ち出した。
『ああ、彼ですか。
実はまだ過去の事例の確認が終わっていないのですが、不幸な事故で亡くなってしまったそうなので確認作業も通り一遍なもので終わると思います』
遠藤氏が私らの言葉を待たずに言ってきた。
はぁぁ?!?!
「え、依頼主か家族が手を打ったんですか?」
まあ、そうなるだろうと碧も暗に言っていたけど、昨日の今日で??
『一族の企業への就職は一切お断り、今後の資金援助や財産の分割は過去に渡したモノ以外は口約束されていた分も含めて全て無し、そして自力で運び出せる私物だけ持って1週間以内に家から出て行けと絶縁宣言されて、部屋でビールをしこたま飲んでふて寝している間にクーラーが偶然壊れて止まっていたらしく。
夜中に目覚めて、部屋のミニ冷蔵庫が空になっていたので一階まで追加のビールを取りに戻ってビールを飲みながら階段を登っていたら、行きに垂れ流した汗で濡れていた床で足を滑らし、脱水症状気味でふらふらしていたせいなのか、階段から後ろ向きに落ちて首の骨を折って亡くなっているのを今日の早朝に家令が発見したそうです』
う〜ん。
クーラーが壊れたのは偶然なのかね? でもまあ、そう都合よくは壊せない? 脱水症状狙いの意図的なサボタージュかと思ったけど。とは言え、ここ数日は涼しいから夜間ならクーラーが切れてても極端に問題は無さそうではあるかな。
部屋のミニ冷蔵庫が空だったのは全部飲んだ後、既に実質勘当された次男の部屋の冷蔵庫をストックする使用人が居なかったからなのか、それとも誰かがこっそり中身を抜き去ったのか。
階段から落ちたのは脱水症状気味な上に酔っ払っていたから、濡れた床に滑ったのか。でも、階段を登る時って足を滑らせても、首の骨を折る様な落ち方ってそうそうしないと思うんだけどね〜。
こう、床が滑りやすい様に綺麗にワックスがけを敢えて昨日の午後にやったのかな〜?とか。
エアコン自体が壊れてなくても、そっと忍び込んでエアコンを切った上でリモコンを壊れたやつと交換すれば、実質的には素人にとって故障状態だよね、とか。
色々と可能性は思い浮かぶ。
「因果応報ってやつですかね?
まあ、それはさておき。加害者本人が呪詛に実効性があることを知っていたと自白していた場合は、二回目以降として扱うようしてはどうですか?
是非、退魔協会や政府の方にも提案して下さい」
碧があっさりそう言って、電話を終えた。
「ね?」
碧がこっちを見て、肩をすくめた。
どうせ加害者が死ぬなら、現在の決まりを変える様に強硬に主張する必要は確かにないのかな……。
何とも闇が深い。
珍しく、因果応報で章が終わりました。自然現象的な因果応報なのか、誰かが家を守る為に手を下したのかは不明ですけど。
明日はお休みをいただきますが、明後日からまた宜しくお願いします!




