反省の色は無し
取り敢えず、親子と義理(予定)の娘/姉な依頼主との喧々囂々とした言い争いは放置して、退魔協会へ連絡して呪詛を掛けた犯人の詳細(そっと壁際に立っている執事に確認した)を遠藤氏へ伝える。
呪師の詳細は退魔協会か警察の人間が尋ねることになるので、私と碧は言い争いの場へ首を突っ込むのは控えておいた。
と言うか、この家や依頼主のところみたいに、退魔協会の存在を知っている家系だったら呪詛だって実在すると知っているんだから、初犯でも警告なしで厳刑で良いんじゃないかねと言う気はする。
『まさか効果があると思わなかった』なんて、単なる建前な言い訳でしかない。それこそ包丁で人を刺しておきながら『今までやった事が無かったから、これを相手の胴体に刺したら死ぬなんて夢にも思っていなかった』と主張するのと同じだ。
実際に今まで刺した事はないなら、どこをどういう風に刺すのが一番効果的かとかは知らない。だがやれば相手が大怪我して、死ぬ可能性が高いと言うのは常識として分かっているからこそ、やったら初犯で罰せられるのだ。
呪詛だって、実在すると知っている上流階級の家の人間だったら同じだろう。
まあ、唯一の違いは、包丁で刺したら死ぬのは通り魔のニュースやドラマなどで人が死ぬと言う話を日常的に目にするのに対し、呪詛はテレビや映画ではフィクション扱いでしか出てこないところかな。
想像力の欠如ってやつかね〜。
まあ、人殺しとか傷害だって余程悪質で計画的にやったんじゃ無い限り、初犯は減刑されたり執行猶予がついたりする事も多いみたいだけど。
つうか、実効性があると分かっていて呪詛に手を出した人間なんて、またそれに手を出すに決まっているのだ。
勘当とか次期当主候補から外すとかって一族内で罰したところで、それを温情だと理解して有り難く思うよりは、恨んでこっそり殺し屋を雇うか出奔して呪詛を掛けるかなんじゃない?
いや、呪詛は返されると分かっているから掛けないか。
そう考えると、今回は呪詛を転嫁してなかったし、呪詛がバレると言う事は想定していなかったっぽいよね。
呪詛は本物だと信じているのに、退魔協会は詐欺師だと思っていたのかね?
それとも結婚式に差し支えるほど汗をかくのを、異常だと思って退魔協会に依頼を出して呪詛だと調べないと思っていたのか。
まあ、退魔協会に依頼を出す前に散々名医や権威のある医者や大学病院とかを回ったらしいから、確かに呪詛だと気付くのは遅かったかもだけどね。
もっと致死性の高い呪詛だったら、気付く前に死んでいたかも?
ぐだぐだと次男が言い訳をしていたら、玄関の方が騒がしくなり、バン!と扉が開いて若い男が入ってきた。
「あら大樹。
今日は忙しいんじゃなかったの?」
依頼主がのほほんと尋ねた。
これが婚約者か。
運転手か誰かが連絡を入れた様だ。
「君が呪詛返しをするために退魔協会を雇ったと聞いていたが、それが実家に辿り着いたと聞いてね。
急いで仕事を終わらせてきた」
男が答え、頬に赤い手形をつけて汗を滝の様に流している弟を見た。
「何をやっているんだ、泰斗!
俺を呪うならまだしも、聖良を標的にするなんて!」
大樹氏が弟に詰め寄る。
「男相手の呪詛だったら本当に体調を壊させなきゃ駄目だろう? 見た目だけの問題ですむよう聖良さんにちょっと不便な思いをして貰っただけじゃないか。
実害が無かったんだから、ガタガタ騒がないで欲しいね」
泰斗が不貞腐れた様に応じた。
うわ〜。
あれを実害がないと言うのか。
まあ、確かに呪詛としてはマイルドなタイプだったけど。
己の自分勝手な将来設計のために迷惑をかけたと言う意識は、あれだけ怒られても無いんだね!?
いやまあ、反省するとしてもこのタイプだったら『見つからない様にもっと上手くやれば良かった』って悔いるだけか。
それこそ相手をうっかり意図せずに殺しちゃいでもしない限り、本心から『迷惑を掛けてごめんなさい』とは考えないんだろうね。しかも殺しちゃっても後悔の念は軽く、短そう。
ドゴ!
大樹氏が弟の腹を殴った。
顔を殴るよりも効くと思ったのかな?
中々良い感じな体重移動で威力もあったようで、泰斗が床に這いつくばっている。
全然反省していない相手だから、それこそ手足を折って袋叩きにして心を折るぐらいの勢いでやらなきゃ、あまり意味はないと思うけどね〜。
中途半端な暴力は単に逆恨みされるだけじゃない?
どちらにせよ。
もう私らは帰って良いかな〜?




