意味深な沈黙
SUVが動き出したら、小さく溜め息を吐いた依頼主が座席の横にあったクーラーボックスを開けて中に入っていたスポーツドリンクを取り出し、箱をこちらの方へ軽く押しやった。
「良かったらどれかどうぞ?
クーラーの効きすぎで暖かいのが欲しいなら、ちょっと待ってもらう必要があるけれど」
「いえいえ。冷たい方が良いです。
ありがとうございます」
碧がそう言って緑茶のボトルを手に取り、私は麦茶を貰った。
「汗をかき過ぎるせいでミネラルバランスまで狂いそうだから糖質ゼロなスポーツドリンクを朝から晩までガブ飲みしなくちゃいけなくて、本当にもうウンザリなのよ」
緑茶を飲む碧を羨ましげに見ながら依頼主が言った。
「無理にスポーツドリンクを飲まなくても、必要なミネラル分をサプリか何かで補給して普通にお茶を飲んでもいいのでは?」
碧が応じる。
大量に汗を流すスポーツ選手とかがスポドリしか飲めないとは聞かないから、汗で流れ出ちゃうミネラル分さえ補給できればお茶でも何でも、構わないよね?
それこそ、スポドリが売り出される前だって、炎天下で農作業なり工事作業なりしていたのだ。
必要なミネラルの補給をしっかりやらなくても、最初は手が震えてくるとかダルくなるってところだろう。そうなったらミネラルを摂るよう頑張れば良いんだし。
と言うか。
今現在で見た感じ怠そうだから、既に何かミネラルバランスが崩れているんじゃない?
スポドリだって万能じゃあないだろうし。
まあ、無理やり汗を流させると言う呪いは身体にとって不自然な反応が起き続けている状態なので、そっちのせいで倦怠感を感じている可能性もあるけど。
取り敢えず、呪詛を返し終わったら医者にしっかり血液検査でもして貰って、必要なミネラルなりビタミンなりとそれの補給に適したサプリでも教えて貰えば良いだろう。
そんな事を考えながら、私は碧と依頼主の会話には加わらずタブレットのマップ上の現在地と呪詛の繋がりを確認し続けていた。
暫く進んだところで、運転手さんが車を一時停止させた。
「10分経ちました。
もう少し行きますか?」
「ちょっと待って下さいね」
そう答え、最初に依頼主の屋敷から引いた呪詛の線と、今見えている線をマップに書き足し、それが交差する場所を確認する。
「呪詛を掛けた人物がここら辺に今現在いる様ですが、誰か心当たりはありますか?」
依頼主にマップを見せながら尋ねる。
ちなみに、今回の呪詛は珍しく転嫁が無い。
まあ、大量に汗をかくだけだからね。
下手をすると寝ている間に脱水症状で意識不明になり、そのまま目覚めずに死ぬなんて事も起きうるかもだけど、掛けた本人的には大して危険がない嫌がらせなつもりだったんだろうなぁ。
「……そこは知り合いや親族や友人がそれなりに住んでいる地域ですから、何とも言えないわね。
これって大雑把な推定なのよね?
この線が交わる地点の家が確実にそうと言う訳ではなく?」
タブレットのマップを見て暫く何も言わなかった依頼主が、タブレットを返しながら微妙に役に立たない返事をしてきた。
う〜ん、もしかしてこの線が交わる住所に住んでいる人間に、心当たりがあったり?
庇っているのか、単に完璧を期したいのか。
まあ、それ程遠くは無いから辿り着けば分かるでしょう。
親しい誰かに嫌がらせ的な呪いを受けていたとショックを受けた依頼主を慰めるのは、私らの仕事じゃない。
「取り敢えず、ここら辺に向けて進んで下さい。
もっと近づいたらもう少し正確な指示を出せる様になると思います」
タブレットの地図を運転手さんに見せながら、頼む。
マップアプリに登録してある様な店がある様な場所じゃ無いせいで、住所は出てこない。が、運転手さんは地図を見て一瞬動きを止めたが単に『分かりました』とだけ言って車を再度動かし始めた。
なんか怪しげだね〜。
依頼主の日常的な移動を運転手として請け負っているのなら、家を訪ねていく様な親しい知り合いの家の場所ぐらい知っていても不思議はない。
呪詛って個人的に知っている相手から掛けられる事が多いとは言え。
親しい相手だとしたら、ちょっと普段以上に気まずそ〜。




