いいな〜。
「退魔協会の依頼でも言ったけど、この呪詛って返しても相手は死なないし身動きが取れなくなる訳でもないでしょう?
だから単に返すだけじゃ駄目なの。
しっかりと呪詛を辿って呪った本人まで行って、はっきりと『呪いを使っていて、それに効果がある事がわかっているわね』って宣告する必要があるの。そこのところ、大丈夫ね?」
依頼主がタオルを首筋に当てながら聞いてきた。
これだけ汗をかいていたら外を出歩くとちょっと注目を集めると思うが、確かに少なくとも動くことはほぼ問題なく出来るよね。
つまり、もう一度呪詛を掛けるなり、自分で包丁を持って襲ってくるなり、選択肢はいくらでもある。
「ええ。
ただ、位置を確定させるためには車で移動して頂く必要があります。
今から出られますか?」
さっさと終わらせる方が良いだろう。
と言うか。
呪詛を返しても相手に十分なダメージが入らないから大元まで辿る必要があるって、今までにも呪われて、呪詛返しで対処してきた経験があるのかな?
まあ、これだけ金持ちっぽくって美人だったら妬みはたっぷり買ってるだろうね〜。
妬みだけで呪うのはどうかと思うけど。
呪いを解除する側としては、依頼主が呪われて当然な人物ではないと期待したいところだ。
「大丈夫よ。
じゃあ、いきましょうか」
すっと依頼主が立ち上がって、廊下に出て奥の方へ向かった。
あれ?
どうするの?
と廊下で玄関の方に行くべきか迷っていた私と碧に依頼主が声を掛けてきた。
「着いていらっしゃい」
おや〜?
勝手口から車の方に出るの?
と思いながら着いて行ったら、奥の方にあった廊下の扉を開けたら、クーラー完備なガレージに出た。
車に乗り降りする瞬間も暑さ・寒さや雨に晒されぬよう、屋内ガレージが家に直結してるのか〜。
まあ、こんな豪邸に住む人間が乗るような高級車だったら、当然野晒しに駐車なんてしないよね。
ちゃんと壁と屋根があるガレージに車を入れるなら、そこまで家を繋いで、ついでにエアコンをつけて不快な思いをしなくて済むようにするのも当然か。
かなり羨ましいけど。
それこそ、いつの日かガレージ付き戸建てを快適生活ラボのオフィスとして買って、車もゲットする場合は同じように出来るといいなぁ。
オフィスの3階と4階を私と碧が2世帯住宅っぽく住むようにすれば、碧が結婚しても大丈夫かも?
まあ、そこまで私らが稼ぐかは不明だけど。
それこそ引退間際ぐらいになったらがっつりお金が貯まっているかもだけど、下手したらその前に世界がAIに乗っ取られて破綻してるかもだしね〜。
と言うか、引退間際よりもそこそこお金が貯まった時点で、二十年ローンを組んで買うぐらいの方が利子を経費として落とせて良さそう。
ま、そこら辺は碧の将来設計がどうなるのか、もう少し固まってからだね。
私は……想定外な出会いがない限り、結婚する確率はかなり低いから。
やっぱね〜。
うっかり気が抜けた状態で触れると相手の考えていることが読めちゃうとなると、夫婦生活ってかなりイラッとする事が多いんだよね。
寒村生活の時は覚醒したのは結婚とほぼ同時だったし、ああ言う村社会で結婚しないなんて選択肢は無かったが、現代日本だったら別に無理に結婚する必要はない。
そうなると、ストレスが多そうな結婚は……『この人なら!』と思えるような相手と出会わなきゃ、無い。
それはさておき。
慌てて依頼主の後を追ったら運転手っぽい人がSUVの前で待っていて、依頼主の為にドアを開けているところだった。
「行きましょう」
私らも車に乗り込んだところ、後部座席部分に向かい合わせな席がある6人掛けの車だった。
で、依頼主が座る側にはレジャーシートとバスタオル。
準備万端だね〜。
「どこに向かえば良いの?」
依頼主がハンドタオルを取り出して額を拭いながら聞いてきた。
「取り敢えず、10分ほど……西の方へ適当に進んでもらえますか?
現時点ですと南の方向に呪詛の繋がりが見えます。10分程度西へ動けば、三角計測で呪詛の元が大体分かると思います」
タブレットを取り出してマップアプリと確認しながら答える。
「今井。
西へ10分進んで」
私たちが車に乗り込んだ後にドアを閉め、運転席へ回った運転手へ依頼主が声を掛けた。
呼びつけか〜。
会社の部下と違って、運転手との関係はコンプラとかモラハラとかを心配しなくていいんだろうなぁ。
なんか筋肉質っぽいし動きもスッととしている感じだから、もしかしたら運転手兼護衛の可能性もあるかも?
と言うか、少なくともこの呪詛を返した後は護衛をつけた方が良いよね〜。
まあ、この豪邸に住んでいるような人だったら、呪詛を掛けた相手を単に警告だけで済ますとも思い難いけど。
こっちも呪うって言うのはなくても、社会的に破滅へ追い込むよう手を何か打ちそう。
でも、考えてみたら却って社会的に破滅して失うモノがなくなった相手の方が、自爆的な攻撃をしてくる可能性があるからより危険かも?
取り敢えず。
私らは呪詛を掛けた人を見つけたら『まさか効くとは思いませんでした』と言う言い訳が今後は使えませんよと宣告するだけで終わりだ。
ドロドロな報復とかは、私らから見えないところでやってね。




