確かにこれは問題そう
高級住宅地にある駅から車で送迎された先は、豪邸だった。
庭も綺麗に手入れされているし、建物も日本のお屋敷というよりは、それこそヨーロッパの貴族の館みたいにデリケートでお洒落なデザイン。
すんごく素敵だけど……これって耐震性は大丈夫なのかね?
石造りな建物って地震に弱いって聞くけど。
石の中に鉄筋でも通して補強してあるのかな?
まるでヨーロッパから移築したかのように美しい屋敷に、思わず余計なお世話ながら心配になった。
「お嬢様、退魔協会の方々がいらっしゃいました」
玄関を開けて出迎えてくれた執事っぽい男性が、一階の右側にある広い部屋へ我々を案内してくれた。
中では……ちょっと違和感のあるレジャーシートを広げたソファの上に大きなバスタオルを何枚も敷いて座っている女性がいた。
『お嬢様』も『若奥様』も合いそうな雰囲気の、美人だ。
「ようこそ。
どうぞ座ってちょうだい」
女性は立ち上がらずに挨拶の声をかけて、ハンドタオルで顔を拭きながら私たちにソファへ座るように指示した。
ポニーテールになっている髪の毛は汗でしっとり濡れているし、今拭いたところなのに顔も汗で濡れている。
見ている間に、額から汗が流れてぽたっとシャツの胸元に垂れる。
まるで真夏の暑い最中に外でジョギングをしたばかりのような発汗量だ。
普通にソファに座ったら下がびしょ濡れになるから、レジャーシートとバスタオルなのかぁ。水分補給も意識的に頑張らないとあっという間に脱水症状を起こしそう。
「凄い汗でしょ?
先月から異常なほどに汗をかくようになったの。最初は結婚の準備でストレスが溜まって、ホルモンバランスが狂って一時的に更年期障害っぽい症状でも出ているのかと思ったのだけど。ホットフラッシュにしては暑さを感じないし、ストレスだとしても今の年齢で更年期障害なんて困るから、当然医者に行ったの」
依頼主が説明を始めた。
こちらも結婚か〜。
このお屋敷に住むような人だったら、大掛かりな結婚式になるんだろうねぇ。
「結婚はいつなのですか?」
碧が尋ねる。
依頼主の名前は知らせる気がないと遠藤氏から言われていたので、私らも自己紹介していないが、自己紹介ってやらないと雑談もしなくなるんだね〜。
まあ、単に依頼主がイライラしていて雑談をする心境では無いだけなのかもだけど。
「1ヶ月後よ。
既にドレスは出来上がっているし、今から新しいのを濡れても透けない生地で作り直すなんて無理なの。
だから何としても、それまでにこの状態を治す必要があるのよ。なので手当たり次第にあらゆる分野の名医や権威と呼ばれる医者に診て貰ったのだけど、誰も原因が分からなくて。
最後に父が伝手で無理やり割り込んで診てもらった回復師の先生が、どうも呪われているんじゃ無いかって言ってくれたの」
依頼主が続ける。
なるほど。
これだけ汗をかいていて、ひっきりなしに拭いているのにパンダ顔にはなっていないのだから、現状ですっぴんなんだろう。
すっぴんでもこれだけ綺麗なのだ。化粧をしたら眩いばかりに美しくなりそう。
それをせずに結婚式ですっぴんというのは残念だろう。だけどそれより問題は、汗でウェディングドレスが透ける点か〜。
今来ているスポーツシャツっぽいのは汗で濡れても透けない素材なんだろうけど、それでもびっしょり濡れている部分とそこまで濡れていない部分で色味に違いがあるのが見て取れる。
そんな特殊素材じゃ無いウェディングドレスじゃあ……汗をびっしょりかいたら変な風に透けて大問題だろうね。
とは言え、緊張で冷や汗をかく(かも知れない)花嫁のために、ウェディングドレスも防水加工というか濡れても目立たない素材を使っていそうな気もするけど。
まあ、見た目第一なウェディングドレスだから、分からないね。
万が一、自分が結婚することになってウェディングドレスを着ることになったら聞いてみよう。
それはさておき。
「確かに呪詛を掛けられていますね」
まあ、それは既に退魔協会の調査員が確認しているんだろうけど。
苦痛を齎したり、動きを阻害したり思考を歪めるような効果ではない、自然の反応をちょっと暴走させるだけの呪いなせいか、かなり呪詛の穢れは薄い。
だからこそ余計、呪いであるって分かりにくかったのだろう。
「結婚間際と言うことは、花婿さんに横恋慕している女性や、貴女が振った男性とか。呪詛を掛けた相手に心当たりはありますか?」
碧が尋ねる。
呪いって大抵個人的に知っている相手に掛けられているからねぇ。
結婚前の時期をピンポイントに狙った嫌がらせなら、花嫁か花婿と結婚したかった相手が犯人なんじゃないのかな?
「私たちは三年前から婚約していたし、もっと前から結婚しようかと話が出ていたから付き合っている人はお互い五年以上は居ないわ。
ただ、今回の結婚は恋愛感情だけでなく、ウチとあちらの家の提携を固める意味もあるから、競合会社が邪魔をしようとちょっかいを出している可能性もゼロでは無いと思う」
依頼主が首を横に振りながら言った。
うわ〜。
結婚式なのに、祝うのではなく邪魔をしようとする連中が多いのか。
ちょっと酷いねぇ。




