試行錯誤
「一番確実に駐車できる郵便局はこっちの元町の側のだと思う」
私の部屋から持ってきた配送用の箱を組み立てている間にタブレットで郵便局の場所を調べていた碧が言った。
「じゃあ、そこにしよう。
30個も一気に送るとなると、何回車との間を往復しなきゃいけないか分かったもんじゃ無いからね。路駐じゃ無理でしょ」
組み立てた箱にアイピローとクッションを入れてガムテープで留めながらプリント待ちのスクリーンの購入者と注文内容を確認してから印刷ボタンを押す。
色々調べた結果、小規模なビジネスだったら郵便局へ持ち込む宅配が一番安くなりそうと言う事で、送り状用のシールを60枚と箱をクッションだけ、アイピローだけ、クッションとアイピロー一つずつを詰め込むのに適したサイズのを2ヶ月分ほど買って私の部屋に運び込んであった。
諸々の作業は碧の部屋でするんだけど、その分道具や作り上げた商品とかが山積みになっているから箱は私の部屋にしまう事になったのだ。
で、商品への魔法陣挿入が終わったので、発送である。内容を確認しながら箱詰めして、宛先の情報を送り状へ流してプリントし、貼り付けて完了となる。
まあ、最後にそれらの箱を郵便局に運び込む作業が残っているんだけどね。
いくら自分で持ち込めば割引があるとは言え、今から肩と腰が痛くなりそうな気がする。
動物霊達に魔力払いで運ぶのを手伝って貰えたら楽かもしれないが、霊に運ばせるのではポルターガイストみたいになって人目を引き過ぎるからねぇ。
下から押し上げて負担を軽くするだけでも助かるかもだけど、彼らの集中力はかなりいい加減だ。運んでいる最中に飽きて居なくなったり、悪戯心で箱をぶち打ち上げられたりしたら困る。
そうなると、自力で努力だ。
それこそ、時々保育園の保母さん達が子供達を押し込んで移動している、囲い付きの台車っぽいのを借りれたら便利だろうに。
普通に台車に乗せるだけじゃあ揺れたら落ちそうだからなぁ。
車に積むまでは亜空収納を使って時短を狙い、郵便局についてからは筋肉で頑張るしか無いかな。
それなりに軌道に乗りそうだったら、集荷を頼むかなぁ。
まあ、取り敢えずやってみないと分からない面もあるだろうと言う事で、最初は2ヶ月ずつ送るのに使う業者を変えてみる予定だ。
郵便局に持ち込みすると安いようなんだけど、本当にそうなのか。そして費用をケチる分の労力や時間はどの程度大きくなるか。
ちょっと悩ましい。
1ヶ月に大体30個送るとして、持ち込めばどの宅配業者でも一個につき100円ぐらい割引になる。
とすると、毎月3000円で、1年で3万6千円。数が増えると考えると4万から5万円かも。
大きな金額といえば大きいが、微妙だ。
「なんかこれさぁ、持ち込みの労力と時間を考えると符を描いて売る方が経済的にプラスじゃない?
回復用の符の売れる数が限られる私はまだしも、凛だったら小さめでも亜空間収納の符を作れば、宅急便の割引分より確実に高く売れると思う」
自分も箱の組み立てを始めた碧が、私も考えていたことを指摘した。
「そうなんだよねぇ。
だけど、このビジネスそのものが退魔協会と袂を分けたいと思った時に収入源がある様にって言う保険用だからね〜」
と言うか、お金第一だったら快適生活ラボのグッズを売るよりも、退魔協会の依頼を受けてる方が儲かる可能性が高い。
私と碧で30個ずつ1万5千円のクッションやアイピローを作ると製造原価を引く前の収入で月90万円。
退魔協会の依頼を二つも受ければ、多分それより稼げるだろう。
よっぽどみみっちい依頼じゃ無い限り。
「でも、保険の範囲の中で効率的にやってかなきゃだよ」
碧が指摘する。
「まあ、集荷して貰って代わりに符を作って売るんでもいいけど。
なんで急に嫌になったの?」
碧が顔を顰めた。
「おしゃべりで、話を切り上げるのが一苦労な老婦人があの元町の郵便局にほぼ常時出没するのを思い出したのよ〜」
ありゃりゃ。
考えてみたら、郵便局って暇な高齢者屯している事が多そうだよね。孫へのプレゼントとか季節のご挨拶の投函とか、何だかんだと理由がありそう。
おしゃべりなお婆さんかぁ。お節介なお見合いもどきな話を持ち掛けられたりしてもウザそうだ。
地元な問題点だね〜。
とは言え、流石に30個以上の箱を車に積んで源之助も一緒に東京まで戻るのは危険だ。
源之助に箱を齧られるリスクが高い。
源之助って普通に密封してある段ボール箱で爪を研いだりオシッコをかけたりはしないんだけど、何故か齧りたがるんだよねぇ。
顔や首元に当てるアイピローやクッションを提供する快適生活ラボの倉庫に、箱を齧る鼠がいると思われるのは困る。
「認識阻害の魔道カードを持っていく?
出力を弱くすればこっちから話しかける分には認識してもらえるから、郵便局の職員との会話は成立するわよ?」
碧が運ぶ係で私が郵便局の職員とやり取りすれば碧の認識阻害を弱める必要もないし。
「いや、そこまで弱気になる必要はないわ!
でもまあ、あまり酷かったら集荷も考えよう」
キリッと言い切った碧だが。その後に付け加えた言葉で大分と弱気そうに聞こえたぞ?
「まあ、取り敢えず色々と試してみよう」
社会人になった新生活のスタートだからね。
色々と試行錯誤していこう。
取り敢えず、ここで新生活スタートの章の話は終わりです。
明日はお休みをいただきますが、また明後日からよろしくお願いします!




