これで良いのかね?
実家で温泉に行こうと合意したあと、タブレットでAIに『両親と一緒に8月18日と19日で定山渓温泉に二泊三日で行くのにおすすめな宿は?』と聞いて、出てきた結果を両親と話し合って決めた宿で予約を取り、帰ってきた。
面白いことに、ゴーグルのAIで見て気に入った宿がチャットAIでは出てこなかったので、『花丸亭はどうなの?』と聞いてみたら、突然それが一番候補に上がった。
その際に他の宿に関するコメントで80代のご老人なら〜みたいな一節があったので、『親は50代と想定して』と条件を変えても、やはり花丸亭が一番なまま。
却って50代なら花丸亭が特にお勧めと書いてくる始末。
いや、こっちの意見に寄り添い過ぎず客観的な情報が欲しいんだけど、と『私からのインプットは無視してもう一度検索し直して』と書いても花丸亭がやはり一番。しかも、聞きもしないのに、
『私の知識から代表的な人気宿を優先して紹介しました。その際、花丸亭が十分候補に入る宿だったのに、最初の4軒へ入れなかったのは選定として改善の余地がありました。
今回あらためて、口コミ傾向や近年の評価を踏まえて客観的に選び直すと、50代のご両親との2泊旅行という条件では、花丸亭が第一候補になります。これは「花丸亭はどうなの?」と聞かれた影響ではなく、条件に照らして総合評価をし直した結果です。』と弁明を書いてきた。
なんか更にに安心感が減った気がする。
最近はAIを色々と検索に使っていたんだけど、信じて大丈夫なの??
実は質問者の匂わせた希望に阿った答えを書くようにプログラムされてない?
と言う事で。
偶然見かけたAI利用に関する無料セミナーをオンラインで受けてみることにした。
で。受けたのだが。
寝室から出てきてソファにぐで〜と身を投げ出した私に、碧が声を掛けてきた。
「どったの?
なんか疲れてるね」
「なんかさ、私らって仕事でAIを使うなんてことが無いじゃない?
大学の時も多少は利用したけど、教授とかはあまりAIを使わずに自力で考えて書けってニュアンスの発言が多かったから、私らの学年ではそれ程使わなかったし。
日常生活では色々と情報収集には使ってみることが増えたけどね。
ちょっと先日微妙に感じることがあったし、AIを無条件に信じちゃいけないとも言うし。
だから思いついて、ポイ活で出てきたAI利用に関する無料セミナーをオンラインで受けてみたの」
アメリカでは弁護士や検察官や裁判官が判例や法令探しにAI使ったところ、実在しない情報をAIがでっち上げたのに気付かずそのまま提出し、後からそれが発覚して罰金を取られたり裁判所からお叱りを受けたりってケースも頻発しているようだからね。
温泉宿の検索でもなんか途中で意見が変わった上に何とは無しに間違いを認めないっぽい発言が、ちょっと不安を煽ったからセミナーを受けてみたのだが。
「無料セミナーなんてそれこそ自治体がやってるのでもない限り、何らかの下心があってやってるに決まってるじゃん。
あまり期待しちゃあ、駄目でしょ」
碧があっさり指摘してきた。
「まあねぇ。
と言うか、ある程度は自分ところの有料セミナーなり、本の購入なりに誘導するだろうなぁとは思っていたんだけどさ、2時間半もやるんだよ?
誘導以外の部分でそれなりに役に立つ情報を出してくれるのかと思っていたら、全部で10分ぐらいはAIから欲しい方向に的を絞った結果を得る為のプロンプトの書き方に関して解説してくれたけど、残りの2時間以上は只管『いかにこれからはAIを活用しないとオフィスワーカーは淘汰されていくか』の危機感を煽って、今すぐそのセミナーを提供したアカデミーで有料セミナーを受ければ先行者利益をモノにしてお金を稼げる!って話をしまくってた」
日常生活や仕事での活用方法とかに関しては殆ど触れてなかった。
まあ、そこら辺は有料セミナーで学べって事なんだろうねぇ。
でも、せめてAIを信頼し過ぎる危険性でも言ってくれれば良いのに、そっちはAI活用を推進しているアカデミーとしては都合が悪いのか、言及すらなかった。
「なんかさ、AIを使うと資料を纏めてプレゼンするのも凄く簡単って就職した元同級生とかも言っているけど。
あれって最初から全部AIを使っていたら、長い文書を読んで理解して纏める能力っていうのが培われなくて、ある意味社員が居る意味が無くない?」
碧もちょっと思うところがあったのか、愚痴っぽく言った。
新入社員として一杯一杯で働いている友人や知り合いはAIを使って時間を節約するのに疑問を感じていないようだが、私らみたいに会社と言うプレッシャーから外れた存在から見ると、AIに頼りっぱなしなのってなんか危うく感じる。
「AIってさ、めっちゃデータセンターとかで電気を食うって話じゃん。
それこそ以前みたいな大地震と津波があって、節電しなきゃいけないからAIのデータセンターが国内で使えなくなったなんて場合に、アメリカとかのデータセンターで計算させてAIを使えるなら良いけど、あっちだってデータセンターを今建築している最中で余裕はそこまでないだろうから、ある日突然日本全部のAI利用があっちの電気負担でってなったらアクセスが制限されそうだよね」
そうじゃなくても、それこそどこぞの専横国家に海底ケーブルを切られるリスクだってあるし。
「そうなったら、入社時からAIに頼りっぱなしな人って完全に役立たずになりそうだよね」
碧が顔を顰めながら頷いた。
「それに、資料を自分で読まずにAIの要約に頼りまくるって事は、要はAI企業なり、それに圧力を掛けられる政府なり、もしくは暴走したAI自体なりが情報の一部を隠蔽しようと要約する際にそう言う情報をしれっと削除したら、大多数の人はその情報を目にしなくなるんじゃない?」
そうなったら、プロパガンダという形を取らずに、こっそり世論や私らの考え方を左右できるようになるよね〜。
「なんか便利そうだけど、怖い世の中になったもんだね〜」




