56話 吸う者と喰らう者
パキラは、膝をついている。
体がいつもより重い。
風邪を引いているような感覚だが、パキラは病気を患った経験がない。
人生初の体調不良状態とも言っていい。
パキラがその感覚にふけっている最中、バンパイヤから常に攻撃を受けているが、完全に無視している。
虫ほども気にしておらず、パキラは目をつぶっている。
パキラは、特異体質で身体の基礎スペックが高い。
100人力の馬力に丈夫な肉体。
そして、それらを維持し、行使するには、それ相応のエネルギーを消費する。
パキラは、一時間ほど普通に過ごすだけで、一般人の一日分のエネルギーを消費する。
本気を出したりすれば、なおさら消費する。
パキラがそれらを賄うことができているのは、固有能力【大食】のおかげだ。
食べたものをエネルギーに変換する。
この効率が非常に高いため、パキラは問題なく動ける。
現在、パキラは攻撃を受け、大幅にエネルギーを消費し続けている。
底が尽きれば、パキラであっても抵抗がままならなくなってしまう。
その事は、パキラも解っている。
理屈ではなく、本能や感覚で解っている。
『お腹空いたな………………』
パキラは、こんな状況だが、ただそれだけを思う。
痛覚がないわけではない。
パキラだって、攻撃は痛く感じるし、毒も耐性の効果が薄く、苦しい。
それを上回る飢餓感。
優先順位の優劣。
『腹が減った………………』
パキラの頭がその言葉で埋め尽くされる。
『ハラガヘッタ』
埋め尽くされた頭に追い打ちをかけるように詰め込まれる。
それは異物だ。
『何だ?』
パキラが流石に違和感を持つ。
『ハラガヘッタ。モットクワセロ』
『まじで何だ?』
パキラは、その声が何なのか解らない。
自分ではない何かの声。
『クイモノヲクワセロ』
『私も欲しいが、うるさい』
『ナイナラブキヲクワセロ』
『嫌だよ』
『ナイナラシロヲクワセロ』
『何言ってるんだ?』
『ナイナラテキヲクワセロ』
『勝手にやれ』
『ナイナラナカマヲクワセロ』
『黙れ』
パキラが殺意を抱く。
他のものを食らうのは、勝手だが、仲間はダメだ。
『ナラバナンジヲクワセロ』
『嫌だよ。どうせ食うならさっき言ってた敵を………………』
パキラは、そこで考える。
このうるさく、鬱陶しい声の言うように空腹ならば、敵を食ってしまえばいいのでは?
味は、最悪だろうが、腹を埋めることはできるし、敵は減る。
一石二鳥だ。
『クモツヲササゲヨ』
『解ったから黙れ』
パキラがそう強く感情を放つと、その声は止まった。
満足したのだろうか?
否、パキラには、解る。
『満足するのは、これからだ!』
パキラは、その作戦を実行へ移した。
◆
バンパイヤは、命令のままにパキラへ攻撃する。
殴る。蹴る。引っかく。噛む。
それらでは、大した傷を付けることができていない。
だが、攻撃を続ける。
相手は、毒で全く動けない。
このまま一方的に攻撃していれば、殺せると考えた。
そんな時、パキラが立ち上がろうとした。
バンパイヤは、一瞬だけ肝を冷やした。
だが、すぐに体勢が崩れる。
毒でまともに動けないのだ。
バンパイヤが攻撃を再開しようと接近する。
鋭い爪の付いた手を伸ばす。
パキラは、その腕を掴む。
掴めはしたが、止めることはできない。
手は、パキラへ迫る。
パキラは、眼前に迫るその腕を………………
食べた。
肘の手前くらいまでを噛みちぎり、咀嚼し飲み込んだ。
「やっぱ、味は不味いな」
バンパイヤは、後ずさる。
吸血種は、血を吸うことはあっても、食べることはない。
目の前の人間がイカれているのだ。
「足りないな。もっとよこせ」
バンパイヤは、逃れることができなかった。
パキラの糧にされる。
「まだ、足りない………………」
パキラが呟く。
それからバンパイヤたちを眺める。
「もっと、食わせろ」
パキラの蹂躙が始まった。
最初に食べたバンパイヤのエネルギーを元手にして、次の個体を捕食した。
それからどんどん捕食し続け、エネルギーを補給する。
バンパイヤもただ食われているだけではない。
立ち向かったり、逃げたり、魔法を使ったりした。
だが、立ち向かった者は食い物にされ、逃げた者も同じく、魔法は効果があったが、発動までの隙に食われた。
あまりにも数が減ったので他の人間を対応していた者を一部引き抜いたりもした。
それでもパキラは、とまることなく食い続けた。
エネルギーも十分だというのに変換し、続けた。
『おめでとうございます。進歩の瞬間です』
パキラの頭の中に声が聞こえてくる。
当の本人は、ぼんやりとしか聞いていない。
『偉大なるブジンがここまでたどり着いたことを、世界が祝福しましょう』
その声は、讃えるように言う。
『プレゼントです。それでは今後も精進を!』
そこで声は、終わった。
そして、進化が始まる。
溢れんばかりのエネルギーを消費し――――――というより食らわせ、【大食】を進化させる。
食って膨れた大いなる者の胃袋。
逸脱能力【食の神】。
パキラは、大きな胃袋を手に入れた。
パキラは、新たな力を本能のままに行使する。
「覇気よ、喰らえ」
パキラは、手をかざしてそう唱えた。
パキラが放ち、纏っている武者の覇気が相手を包み込む。
それは、口のような形をとって、魔物を越えるほど禍々しくなる。
それは、バンパイヤを飲み込む。
文字通り、丸呑みにして喰らう。
それが『覇気よ、喰らえ』の効果だ。
覇気で飲み込み、喰らう。
物質、エネルギーを問わず、喰らうのだ。
喰らったものは、自己のために還元される。
機能『供物と糧』。
パキラの喰らったものを糧としてエネルギーへ変換される。
万物がエネルギー源となる機能。
他にも信仰心や畏怖などの向けられる感情をエネルギーに変えることもできる。
それらで獲得したエネルギーを収納する場所も必要だ。
その位置は、機能『大いなる者の胃袋』が果たしている。
無限の容量を誇る容器。
その広さは、限りなく無限に近いだけで有限ではある。
だが、制限はない。
理由は、収納されるエネルギー量によって、最大値が変わるのだ。
膨らむというのが、正しいのかもしれない。
スキルが神を騙ることはない。
例え逸脱能力でも絶対だ。
神へ対して信仰する者や抗う者として名に神が入ることはある。
だが、己を神とするスキルは、無い。
それは、スキル自身が神とは別の存在だと理解しているからだ。
よって、神を騙るのは、よっぽど自信過剰やもの知らず、また例外としてただの自己紹介なだけ。
パキラは【食の神】で食いつくす。
覇気が喰らうのでパキラは、棒立ちするだけだ。
覇気を感じ取れない者には、周囲のバンパイヤが自壊しているように見える。
これでも地獄絵図だが、感じとり見える者には、さらなる地獄として映る。
まさに怪物、化け物、魑魅魍魎。
こんな恐怖があるだろうか?
不可視の恐怖と感じる者の恐怖。
両者へ恐れられる象徴。
バンパイヤは、何も解らず、食われる。
そこには、恐怖は無かった。
見えぬ感じぬ者が喰われる時だけは、恐怖を感じずにその生涯を終える。
彼らへの唯一の救いになったかもしれない。
◆
「どうする? 話かける?」
「いやいや、話しかけられる雰囲気じゃないですよ!」
タケとアイリスが相談する。
目の前には、怪物――――――ではなくパキラがいる。
怪物に見紛うほどのたたずまい。
そして、異様な覇気。
二人共、その覇気を感じ取れている。
タケの場合は、『盗賊の眼』の副次的効果で可視化されている。
とても話しかけられるような状況ではない。
「でも、心配じゃん? いつものパキラと違うし………………」
「それはそうですけど………………」
二人は、揃って悩む。
「何してるんだ? 二人共?」
「「ふぇ!?」」
急に話しかけられ、二人は変な風に驚く。
話しかけたのは、パキラだ。
さっきまでの話しかけ難い佇まいではなく、普段通りのパキラだ。
「パキラ、大丈夫?」
アイリスが手始めにと聞く。
「あぁ、毒とかヤバかったけど、もう大丈夫だ!」
「それなら良かった」
三人は、合流した。
サンクトゥス認定の勇者パーティの内三名。
「そうだ! 早くタイムさんに加勢しないと!」
タケは、タイムが押され気味だったことを思い出す。
「………………そう言えば、そうだった!」
三人は、タイムの下へ急いだ。




