55話 魔女
アイリスは、このパーティの魔術師だ。
タイムやパキラが戦士で、タケは裏方。
それと忘れることなく、セピアは呪術師だった。
いつだったか本人も正確には憶えていないが、魔物の解体をしている時、アイリスは、セピアと話しをしたことがあった。
魔物の解体は、慣れれば退屈になるからだ。
最初に話しを始めたのは、セピアだった。
「アイリスさんには、何か隠し事ってありますか?」
セピアが話題として聞く。
弱点を探るとかそういうことではなく、ただの世間話のようなもので仲間としてのコミュニケーションの一環だ。
「隠し事って………………そりゃあ人には、一つや二つくらいあるでしょ」
アイリスが何を今さらという風に言う。
「それと別にさん付けは、いいんじゃない? 歳だって、そこまで離れてないでしょ」
アイリスは、セピアの外見を観察する。
同年代との交流が少ないアイリスでもおおよその目算はできる。
二人の身長は、少ししか違わないし、外見的にも同じくらいだ。
もちろん、それだけで決めつけるのは、良くないが参考にはなる。
「そうか………………それじゃあ、アイリスでいいね。アイリスは、どんな隠し事をしてる?」
「教えるわけないでしょ。逆にセピアには、あるの?」
アイリスは、カウンターのように言う。
「もちろん、ある!」
セピアは、自身に満ちて言う。
不意を突かれたような反応はない。
「言いたくないでしょ?」
「いや、結構打ち明けたい」
セピアは、意外な答えを返す。
秘密とは、明かしたくないものだ。
内容によっては、墓まで抱える場合もざらだ。
「でも、だめなんだよね。本当にもどかしい限り………………」
セピアは、がっくりと肩を落として言った。
傍から言わせれば、それは奇妙な願いだと言えよう。
「いつか、言えるといいんだけどね~」
セピアが真剣に願うわけでもなく、できたらいいなという風に呟く。
「………………そうだね」
アイリスも静かに同意した。
◆
アイリスは、バンパイヤ相手へ魔法を行使する。
そして、発動するたびに技術を上げる。
発動までの短い間に修正をしている。
異常な才能だ。
アイリスは、生まれつき魔術師に向いていた。
万人が欲しがる才能とも呼べる、魔術に適した思考方法を持っていた。
その才は、現在指数関数的に成長している。
この世界の人類が未だ到達していない領域へと目指し、突破し、進んでいった。
『………………君か』
アイリスの脳内に念話のような声が聞こえてくる。
アイリスは、スキルの不調かと考えたが、そんなはずがないことは、すぐに解る。
『さあ、君にも贈り物だ。受け取るといい』
その声は、そっけなかったが、アイリスには、馴れ馴れしく感じた。
『最後に………………やっぱりいいや』
誰ともわからない声は、天邪鬼にも中止した。
それと同時にアイリスは、スキルを獲得する。
それは、技術の結晶。
世界からの贈り物。
固有能力【魔女】。
魔法の極地のようなスキル。
機能も魔法や魔術を強化するものだ。
まず、魔力の制御技術が向上する『魔力の主』。
これにより無駄な魔力を消費せずに魔法を効率よく行使できる。
これだけでも破格の性能だが、もう一つそれと同等かそれ以上の機能が備わっている。
名を『術式の世』。
効果は、事象を術式で再現できる。
科学の実験で自然現象の起こりを分かりやすく再現するのと同じように、この機能は魔法でそれを行える。
発火、落雷、竜巻、圧力などなど大抵のことは、対象だ。
アイリスは、瞬時に機能を把握し、発動する。
『魔力の主』は、常時発動されているので意図的に発動するのは『術式の世』だ。
アイリスが再現する事象、手始めに沸騰を再現する。
アイリスが機能を使用するとそれは、お手軽かつ迅速に術式へ落とし込まれた。
再現魔法『事象・沸騰』
対象は、目の前のバンパイヤだ。
「ア、アァァァァァァ!」
バンパイヤが苦しみだす。
痒い所に手が届かないように暴れる。
表面上は、それ以外の変化がない。
ただ、相手にとっては、変化が大いにあった。
何故なら今、彼の血液が沸騰しているからだ。
それがアイリスの魔法の効果。
『術式の世』の再現される事象は、アイリスの視点や主観が中心で行われる。
アイリスの主観――――――液体は沸騰するという考えによって、血液のみが沸騰された。
そのため液体以外には、効果のない魔法だ。
アイリスは、二度目の魔法をすぐに放たない。
一度目の再現である発想に至ったからだ。
アイリスは、それもまた実現させる。
そして、行使する。
再現魔法『事象・陽光』
その名の通り、日光を再現する魔法。
吸血種には、特効の日の光を放つ。
バンパイヤたちは、有無を言わさず灰へと変えられる。
彼らは、幸せかもしれない。
最初に血液が沸騰した者に比べれば、痛みは注射のように一瞬で終わったのだから。
アイリスが安心する。
もう何も心配することはない。
吸血種は、敵ではなくなったと、ほっと一息を吐いた。
◆
アイリスが安心して、ほんの数秒後。
「アイリスさん! 大丈夫ですか!」
タケがアイリスと合流した。
合流したというにも部屋としては同じ部屋なので、阻んでいたバンパイヤがいなくなっただけだ。
「大丈夫。この通り、四肢もしっかり付いてるよ」
アイリスは、一回転して見せる。
「私より無事が心配なのは、タケの方だね。えっと………………」
アイリスがタケの装いを見る。
傷が多い。
血も出ている。
服は、切れて、血が滲んで、言ってしまえばボロボロな様子だ。
「大丈夫?」
アイリスが本人に問う。
「切り傷とかは、ありますが、命に大事はありません。さっき【再生】というスキルを獲得したので治ってきています。回って見せましょうか?」
「いや、いい。大丈夫。兎も角、無事なら」
「そうですか………………そう言えば、パキラさんは?」
タケが周囲を確認する。
二人が最後にパキラを見た時には、膝をついていた。
二人からすれば――――――パキラを知る者からすれば、異常事態なのは、一目瞭然の状況だった。
「パキラ、大丈夫かな………………」
アイリスは、初めてパキラを心配した。
◆
二人は、すぐにパキラを発見できた。
すぐに騒音が響いて聞こえたからだ。
騒音。
その音は、不快でおおよそ気分の良くなるものではなかった。
そんな音が大音量で繰り返されるのだ。
嫌でも場所が解るというものだ。
音は、何かが潰れる音や折れる音、千切られる音、阿鼻叫喚の悲鳴、時折悲鳴にならない声が聞こえてもいる。
地獄から聞こえてきているのではないか? と疑うようなものばかりだ。
それらを発しているのは、バンパイヤだ。
痛覚が鈍くなっているバンパイヤが悲鳴を上げる。
そんなことは、ありえない。
恨み言でうめくことはあるだろう。
怒りで怒鳴ることもあるだろう。
それが通常で、今が異常。
「………………」
二人は、無言だった。
無意識に気配を消そうとした。
まるで魔物に遭遇した時みたいに見つからないように、と。
生物の生存本能が発露した。
それは………………パキラだった。
パキラだったが、二人の心配は、より増大する。
人がバンパイヤを貪り食っていれば、狂人だって危機感ぐらいは覚える。
アイリスは、人生で初めてパキラを化け物と見間違えた。




