54話 簒奪者
タイムがエイブラハムへ聖剣を振るう。
しっかりと狙った斬撃だ。
ただ、それは容易に回避される。
相手は、人間離れした身体能力を持つ吸血鬼だ。
例え、多少のダメージを与えられてもすぐに再生する。
さらに何らかのスキルによって身体を血液に変化させ、物理的な攻撃のほとんどを無効化してしまう。
「だぁー! 何で効かないんだよ!」
パキラが痺れを切らして言う。
「ふむ、気になるのなら教えてやろう」
エイブラハムは、戦闘を継続しながら解説を始める。
興が乗って来たのだ。
「まず最初に、私は強力なスキルを一つ所持している」
「まさか、固有能力か?」
タイムが問う。
「残念ながら違う。私の持つスキルは、EXスキルでもユニークスキルでもない」
タイムは、少し混乱する。
タイムの知るスキルの種類は、その二つしかなかったからだ。
実際、一般的に知られているのは、その二種類しかない。
一般的には、だが………………
「私もこのスキルを調べるのは、少しばかり時を食ったよ。まぁ、人間より時間はあるがね」
タイムとパキラの攻撃を跳ね返す。
そして、続きを語りだす。
「屋敷の書庫に遠くの大陸に関するものがあった。その大陸では、ユニークスキルを越える力を発揮するスキルが多く見られるそうだ。さらに別の大陸にかつて栄えた古代王国にも関連の情報があったそうだ。その名称は………………」
タイムたちもその説明に聞き入っている。
「世界から外れるほどの力という意味で逸脱能力と呼称され、一括りされていたそうだ」
タイムたちには、初めて聞く、聞き覚えのない情報だ。
「そして、私のスキルは、もちろんユニークスキルのように固有の名称が存在する。この名に関しては、獲得当初から聞いていた………………神託のようにね」
エイブラハムは、皮肉のように言って、その名前も教える。
「私の逸脱能力の名は【文学の吸血鬼】。最悪の吸血鬼の能力だ」
エイブラハムの所持する逸脱能力【文学の吸血鬼】。
ユニークスキルを越えた格を持つ逸脱能力である。
その機能は幾つか存在する。
『深紅のインク』。
この機能は、先ほどから披露しているもので身体を血液に変化させること、そして自身の血液を操作することも可能だ。
『吸血の王』。
吸血種としての特性を強化する機能であり、吸血種の使用時のみ効果を発揮する。
吸血した対象を自身の眷属として従えることが可能であり、指示を出すことも可能だ。
バンパイヤの統率の正体は、これだ。
他にも再生力を高めたり、弱点が効かなくなったりと破格の性能をしている。
最後に戦闘向けではないが、『空中文学』という便利機能もある。
これは、空中に文字を書けるという機能でただそれだけのものだ。
メモ帳要らずの能力だ。
「以上の三つが私のスキルの機能だ」
エイブラハムが説明を終える。
「親切にどーも」
「こちらこそ、全て聞いてくれてうれしいよ」
エイブラハムは、にこやかな表情で言う。
この返答にタイムは、違和感を持った。
ただ、違和感を持つだけで意味には、辿り着けなった。
アイリスならば、気が付いただろう。
エイブラハムが魔法を放つ。
風魔法に自身の機能を上乗せした技。
『血風乱斬』
血が『風刃』の形になり、高速で空を裂く。
それはパキラを狙って放たれた。
そして、パキラに命中する。
回避は、困難だった。
その傷は、浅い切り傷で大したものではないように思える。
エイブラハムは、余裕に満ちた表情を維持している。
「!?」
パキラが膝を突いて、倒れる。
「何だ? これ………………」
パキラは、珍しく調子が悪そうだ。
「ふむ、意識を保って、膝を突くに留まるか」
エイブラハムは、パキラの丈夫さに関心する。
その結果は、エイブラハムからすれば、異常だった。
何故なら現在、パキラの体内には、エイブラハムの血液――――――つまり、アンデットの血が流れている。
それは、人間にとっての猛毒となるものでそれを確実に命中させるために長々とスキルを解説し、魔術によって強化したのだ。
普通の人間なら死亡し、良くとも気を失う。
だが、パキラは、未だ意識を保っている。
本当に人間か少し怪しい。
「まぁ、後の相手は、バンパイヤどもに任せれば問題ないだろう。これで一対一だ」
エイブラハムは、タイムへ不敵な笑みを浮かべた。
◆
火魔法『火球』
アイリスが一発、それを放つ。
火魔法『火球』
アイリスが続いて二発目を放つ。
火魔法『火球』
アイリスが放つ。
続けて、何発も。
数は一向に減る様子はない。
「アイリスさん。ヤバイです。これまでで一番」
タケが焦りながら言う。
「そんなことは、解ってるから! 何とか持ちこたえて………………」
「持ちこたえてどうするんですか?」
アイリスが言葉を詰まらせる。
「タイムさんとパキラさんは、助けに来られません! 耐えたところでじり貧ですよ!」
「………………」
アイリスの顔色が暗くなる。
その瞬間、隙を突かれたように二人は、分断された。
この時、四人は、孤立した。
『ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!』
その中で最も危険な状況なのは、タケだ。
心の中で何度も危険を叫ぶ。
『あぁ、もしかしたらここで死ぬかも………………』
あまりの恐怖に死の覚悟すらする。
不思議なことにこんな状況でもタケは、タイムを責めることはなかった。
何で僕をこんな危険な場所に連れて来たんだ。
そんなことは、決して頭をよぎることだってなかった。
バンパイヤの攻撃がタケへ命中する。
手刀で刺すような攻撃だ。
指が腹に刺さり、壁へ叩きつけられた。
『あぁ、血が………………』
タケは、嫌な想像をする。
このままバンパイヤに血を全て吸い尽くされてしまうのではないか。
そもそもこの後、噛まれて吸血種に変えられてしまうのではないか。
自分の血や肉などが奪われるような結果になるのでないか。
『それは、嫌だ』
タケは、かなり先の未来のことだが夢がある。
どこか、涼しい風の吹く、見晴らしのいい場所へ埋葬されることだ。
随分変わった夢だ。
死後の願望を語るには、早いし、まだ若すぎる。
タケは、物欲がある。
パーティーの物資として、買い出しで様々な物を購入している。
もちろん、旅で使用可能な物品だが、最小限の荷物とは、いい難い。
そして、物欲がある分、奪われるのは嫌いだった。
所持品から自分に至るまで、彼の所有物だ。
そんな心が【盗人】を創り出した。
さて、奪われないためには、どうするか?
簡単だ。
略奪者から奪えばいい。
目には目を、だ。
タケは生存本能に従うように最寄りの敵へ触れる。
そして、奪えるだけ奪う。
血液、骨。
一体目は、それだけで終わった。
次に襲いかかってくる個体。
タケは、奪いとる。
血液、骨、内臓。
徐々に多く奪っていく。
『あぁ、魔力が………………』
連続の行使により、魔力が残り少なくなる。
少ないのなら足さなければならない。
足らないのなら奪えばいい。
近くにいたバンパイヤに触れ奪う。
ありったけの魔力を己が物にするため。
この時、タケのスキルは成長していた。
以前までは、魔力など奪えなかった。
そのことがタケの物欲を加速させる。
物欲の巨大化に比例し、スキルが成長する。
はち切れるほどの魔力を『盗人庫』へ納める。
ここまでくれば、【盗人】としての成長は、頭打ちだ。
タケは奪い続けた。
怪我をしてもその分、奪う。
報復などではない。
怪我など無視して奪う。
『うわー。凄いね』
ついに幻聴が頭へ流れ出す。
『欲に流された先は、大抵破滅だけど………………これも進歩になるのかな?』
幻聴は、訳の分からない内容だ。
タケ自身も冷静になって疑問を感じる程度には、意味不明だ。
『さぁ、進歩した者には、ご褒美だ! これからも精進してね』
そこで幻聴は、終わった。
そこでタケに変化が訪れる。
正確には、タケのスキル【盗人】だ。
『盗人庫』にため込まれた魔力が【盗人】に吸われていく。
成長の次、それはスキルにおいて進化を意味する。
生物学においての進化ではない。
その個が変化し、強化される。
変化が終わる。
エイブラハムは、言った。
ユニークスキルの上位は、逸脱能力だと。
タケのスキルは、【盗人】から逸脱能力【大盗賊】へと進化した。
能力としての格が上がった。
それは、珍しい事例だった。
少なくともこの大陸内では、極めて希だ。
格が上がったことは、タケにも感じとれた。
同時に自身へ知識が流れ込む。
逸脱能力【大盗賊】について。
タケがバンパイヤへ目を向ける。
数は、まだまだいる。
『まだ、奪えるな』
タケは、ただそれだけを考えた。
また、触れて盗む。
タケの進化させた【大盗賊】の力、それはタケの盗む欲望が最大限反映されている。
『盗賊の腕』。
【盗人】時代から引き継がれ進化した機能。
触れた相手から所持品や魔力が盗めるのはもちろん、その対象は、スキルにまで及ぶ。
成功率はあるが、抵抗されなければ確実。
格上相手以外では、抵抗されたとしても成功率は高い。
『盗賊庫』
これも受け継がれ進化した機能。
盗んだ物を保管する制限のない空間収納。
所持品には、搬出する時、簡単な命令が出せる。
扱えない武器でも出せば一度だけ、自動で攻撃や防御を行わせることが可能。
ただし、一度に命令できる数は、少ない。
『盗賊の眼』
進化の際、新たに獲得した機能。
目で見た技術、スキルなどをお粗末ではあるが、模倣できる。
精度はかなり悪く、火球を見ても、少し熱い熱がつくれるだけだ。
タケは、バンパイヤから盗む。
魔力、生命力、血液、骨格、内臓。
同時にスキルも盗む。
【損傷耐性】【再生】。
次から次へと片っ端から。
吸血種に奪われることはない。
彼が臆病で強欲な簒奪者になった日だった。




