第43話 私の仕事の値段
責任講師としての待遇案には、月に銀貨六十枚とあった。
オリヴィアは勤務欄を読んだ。授業、教材の改訂、講師の育成、実施記録の点検。
「講師等級の規程に基づく額です」
研修所の責任者が説明した。
神学院で働いていた頃より、額も責任も大きい。オリヴィアは、用意してきた紙を開いた。
「お引き受けしたいと思っています。その上で、担当する量を確認させてください」
「はい」
「最初から、すべての教室を受け持つことはできません。授業は週三日、残る二日は教材と後進の育成、準備と記録に。週二日は業務を離れる形にしたいのです」
責任者は予定表を見た。
「受講希望者は増えています。授業日を減らすと、待つ方が出ます」
「だから、私だけの授業を増やすより、ニナ先生たちが担当できる時間を増やしたいのです。育成を勤務の外に出すと、結局どちらも続かなくなります」
オリヴィアは、六人の実証記録を差し出した。
得意なことも、まだ助けが要ることも書いてある。これを見て相談する時間が、教室を支えていた。
「最初は六人ずつ、二組まで。増やす時は、講師の人数と設備も一緒に確認していただけますか」
責任者はすぐには頷かなかった。予算を開き、日程を比べ、事務担当も呼んだ。
オリヴィアは、その間を待った。
断られるのが怖くて、先に条件を取り下げることはしなかった。
話し合いの結果、初めの半年は二組で始めることになった。ニナの担当日を設け、オリヴィアは授業を見る日と、教える日を分ける。
「教材と記録の名義についても、決めておきたいのです」
彼女が言うと、責任者は別紙を出した。
著者、原案、実践、技術監修。それぞれの役割に応じて名前を載せる。共同で作ったものを、オリヴィア一人の著作にはしない。改訂の履歴と、利用できる範囲も残す。
オリヴィアは、ニナの実践記録を思い出した。
「はい。この形でお願いします」
ニナの名が入る欄へも目を通してから、オリヴィアは別紙を返した。
条件を整えた契約書は、三日後に届いた。
彼女は最初から読み直し、勤務日、休日、名義の欄を確かめてから署名した。
帰り道、オリヴィアはフェリクスと、北側の住居棟へ寄った。
見学は二度目だ。前回、彼女の机を置くならと測った窓辺には、まだ何もない。
「契約、決まったわ」
彼は顔を上げた。
「休日も?」
「ええ。授業の準備を、夜へ持ち帰らなくて済むようにしたの。最初の半年は、無理に人数を増やさない約束も」
フェリクスが笑った。
「では、ここで本を読む時間も取れますね」
「あなたの海獣の本も、置く場所を決めなくては」
窓の隣を指すと、彼は少し真剣に棚の幅を見た。オリヴィアは、それがおかしかった。
「棚は、ここまでで足りますか」
「私の本の場所も残してね」
「もちろん。椅子は、村と同じように隣へ?」
オリヴィアは窓辺へ立ち、彼を手招きした。
「このくらいなら、一緒に頁を覗けるわ」
彼が隣へ来る。家具のない部屋で肩が触れた。
「近すぎませんか」
「……このくらいがいいの」
彼の腕がそっと背へ回り、オリヴィアはそのまま窓の外を見た。まだ何も運び込んでいないのに、ここへ帰る時のことが浮かんだ。
外へ出る前に、フェリクスが彼女の手を取った。
「次の休日、半日空いていますか」
「手帳に丸をつけた日でしょう。空けてあるわ」
「では、庭園へご一緒に。先日、改めてお話しすると約束したことを」
オリヴィアは彼の手を握り返した。
「ええ。楽しみにしています」
初めて王都で誘われた時は、どんな用件かと聞いた。
今日はもう、聞かなかった。




