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私の教え子、王国最強になったあとも家庭教師代を払い続けているのですが~恩返しだと思っていたら、年下公爵の恋でした~  作者: 他力本願寺


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第41話 誰の教えだったのか

翌週、王立教育評議会の大会議室で、第三者機関による公開審査が始まった。


 証言席に座るオリヴィアの後方には、傍聴に来たフェリクスとニナがいた。入室する時、二人と目が合ったことが、今は心強かった。


 対面の席には、不機嫌そうに腕を組むセドリック副議長と、すっかり生気を失ったヘルマン・ライス教務監理官の姿がある。


 中央の壇上には、評議会や神学院とは一切の利害関係を持たない、法務局や外部の学術機関から招かれた五名の審査員たちが並んでいた。


「これより、現在の『成人向け基礎魔法・標準教材』の出所と、その作成過程における不正の有無についての公開審査を開始します」


 ダリア監査官の透き通るような声が、会議室に響き渡った。


「原案者の名前と、器具に応じた調整の注意が消されています。本日は、誰がその改訂を決めたのかを確かめます」


 その言葉に対し、セドリックは鼻で笑うようにして反論した。


「原案の一つを参照したことは認める。しかし、編集して広く使える形にしたのは検定部門だ。部門の成果として記載して、何が問題なのか」


 オリヴィアは、膝の上の原本を押さえた。部門の仕事。その言葉で、自分が書いた部分までなくなったことにはされたくなかった。


「……では、こちらの資料の照合をお願いいたします」


 一つ目は、オリヴィアが村から持ち込んだ『赤い糸で綴じた補習ノートの原本』。


 二つ目は、保管室の司書が取り出し、原本と照合した『提出控えとその受領記録』。


「そして三つ目が、こちらです」


 ダリアが最後に提示した書類を見た瞬間、セドリックの顔色が一気に土気色に変わった。


「神学院のヘルマン教務監理官の供述に基づき、評議会の過去の決裁記録から発見された『教材改訂指示書』の原本です」


 ダリアは冷徹な声で、その指示書の内容を読み上げた。


「『図解原案を採用。出典表記は検定部門へ統一。指定器具一式を使用する前提により、個別調整の注意項目は本文から削除』……そして指示書の決裁番号は改訂台帳と一致しています。末尾には、当時検定部門長だったあなたの承認署名があります」


 セドリックが身を乗り出した。先ほどまで腕を組んでいた手が、指示書の写しへ伸び、途中で止まった。


「ち、違う! それは……!」


「記録のどこに相違がありますか」


 審査長が尋ねた。セドリックは指示書と台帳を見比べ、頁を戻した。


「部門としての編集だと、申し上げている」


「承認署名は、あなたのものですね」


 短い沈黙の後、セドリックは頷いた。


 ダリアが実証授業と水門での実施記録を、別の束として審査員へ渡す。原案の出所を示す文書三点は、机の中央に残された。


 審査長が、オリヴィアへ説明を求めた。


「元の図で、この折り返しを足した理由を教えてください」


 オリヴィアは原本を開いた。


「最初の説明では、器具が変わった時の違いを伝えきれなかったからです。教え子が失敗し、私も調べ直して、後から書き足しました」


 彼女は、現在の教材の同じ場所を指した。


「部門が編集した仕事まで、私のものだと言うつもりはありません。ただ、私が書いたところには私の名前を。使う条件を変えるなら、どこを確かめ直したかも残してください。これから教える人が、同じところで困らないように」


 ヘルマンも、提出と改訂の経緯を証言した。彼の供述は、事前に提出された記録の番号と照合された。


 審査員たちは休憩を挟んで協議した。オリヴィアは廊下で水を飲み、フェリクスと短く言葉を交わしてから、再び証言席へ戻った。


 審査長が立ち上がり、重々しい声で決定を下す。


「……証拠は十分に揃いました。当審査会は、現在の標準教材の基礎図解の原案が、オリヴィア・ヴァンザール氏によって作成されたものであると満場一致で認定します。また、現場の安全に不可欠な注意事項を削除し、作成者名を偽った評議会の行為は、極めて不当なものであったと結論づけます」


 審査長の手から、一枚の『訂正決定書』がダリアへと渡され、それが証言席のオリヴィアの目の前に置かれた。


 そこには、基礎図解の原案作成者として、『オリヴィア・ヴァンザール』という名前がはっきりと記されていた。


 オリヴィアは、その名前の最初の文字へ指を置いた。


 一年前は、返された報告書を鞄にしまうしかなかった。今日は、この紙を持ち帰っていい。


 礼を言おうとして、声が出なかった。


「ヴァンザール先生」


 審査長が待っていた。急かす人はいない。


「……はい。私が、書きました」


 言ってから、息が震えた。指で押さえても、紙の端が少し揺れる。


「私の名前を、戻してくださって……ありがとうございます」


 顔を上げるまでに、もう一呼吸かかった。


 傍聴席のニナが目元を拭っている。その隣でフェリクスが頷いた。彼の顔を見たら泣いてしまいそうで、オリヴィアはもう一度、自分の名前を見た。


 決定書に視線を落としている間に、ダリアが次の束を開いた。


「さて、セドリック副議長」


 ダリア監査官の、氷のように冷ややかな声が再び響いた。


「続いて、教材を配布した経緯について伺います」


 ダリアは、指定器具の契約と、欠落した注意事項を並べた。


「指定器具以外が混在する現場へ、なぜ配布したのですか。安全の確認も商会との契約も、あなたの部門が扱っていましたね」


 オリヴィアは決定書を折らずに、持参した書類板へ挟んだ。名前が隠れない向きにして、次の説明を聞いた。

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