第34話 あなたの力を信じて割り振る
ニナが記した三つの枠に、班長の名前と機器番号が埋まっていく。
「こちら第三操作室。中央ゲートの切替盤、番号七二です」
「第三操作室、七二。班長さん、現物の銘板で確認をお願いします」
オリヴィアが繰り返すと、短い間を置いて、確認済み、と返答が来た。
記録係が部屋名に丸をつけた。
「ニナ先生。第三操作室に、伝達を確かめる人が一人必要です」
オリヴィアが言うと、技師長は係員を呼んだ。
「内側の連絡廊下は通れます。外へ出ずに案内してください」
「わかりました。着いたら連絡します」
ニナは確認表の写しを持って立った。いつもなら一緒に行きたくなるところだった。オリヴィアは、自分の前の図へ目を戻した。
技師長は最初の操作を短く区切った。
第二ゲートを指定の目盛りまで開く。計器を確認し、上流側の圧が下がったことを確かめてから、第五へ。
オリヴィアはそれを通信係と各室へ伝えた。
返答に合わせ、記録係が確認札を動かす。準備、確認待ち、停止。今どこで待っているのかが、机の上に見えた。
「第二操作室、準備できています」
「第五操作室、待機」
「第三操作室、ニナです。班長さんと確認しました。こちらも待機します」
ニナの声は少し弾んでいたが、部屋名ははっきり聞き取れた。
技師長が頷いた。
「第二、実行。副官、魔導長へ保持範囲の変更を」
オリヴィアが指示を伝えると、フェリクスの声が返ってきた。
「第二の切り替えに合わせて、補助側の流れを逃がします。第五側は保持を継続」
技師長が確認した。
光の壁がわずかに形を変え、水の白い筋が流し先を変えた。
「第二、開度到達!」
「下流側、水位は範囲内です」
報告が一つずつ揃う。オリヴィアは札を戻した。
「第二、完了。第五へ進めます」
第五の操作に移る間、フェリクスが一度咳き込んだ。
オリヴィアは窓を見そうになり、こらえた。彼へ何かを言う前に、次の確認を終えなければならない。
「第五操作室、復唱をお願いします」
返ってきた開度が違った。
「そこは、半分ではありません。技師長さん、もう一度」
技師長が目盛りを言い直した。班長が自分の操作書で確かめ、返答する。
今度は正しい値が返った。
フェリクスの声がした。
「準備できています」
掠れた声なのに、急げとは言わなかった。
オリヴィアは窓の外の光を見た。すぐそばで手を握ることはできない。ここで返答を確かめる自分を、彼は待っている。
技師長の合図が出た。オリヴィアは通話器へ向き直り、はっきりと実行を伝えた。
第五の開度が安定すると、技師長は中央ゲートの図を寄せた。
ここが開けば、逃がし水路だけに集中している流れを、主流路へ戻せる。
「第三操作室。中央ゲートの操作を始めます」
通話器の向こうで、ニナが班長と短く話す声が聞こえた。
その後に続いた返答は、オリヴィアのよく知る声だった。
「中央ゲート、起動の担当はトマです。指示をお願いします」
彼は一人ではない。班長の監督下で、認められた範囲の起動操作を受け持っている。
それでも、ここから彼の手は見えなかった。
オリヴィアは確認札を机に置き、彼の返答を待った。




