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私の教え子、王国最強になったあとも家庭教師代を払い続けているのですが~恩返しだと思っていたら、年下公爵の恋でした~  作者: 他力本願寺


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第29話 好きな人を隠さない

週明け。王都の公益研修所で開かれた月次の事業報告会は、息苦しいほどの緊張感に包まれていた。


 長机の一方には、質問書を持った王立教育評議会のセドリック副議長が座り、その鋭い視線をオリヴィアに向けていた。同席しているのは、独立監査官のダリアと、教務監理官のヘルマン。そして、事業の後援者という立場で呼ばれたフェリクスだ。


「ヴァンザール先生。あなたが、実証事業の推薦者である四名の貴族の方々から、退職後の一年間にわたり『月謝』という名目で多額の私的送金を受け取っていたというのは、事実ですね?」


 セドリックの重々しい追及の声が響く。


「はい、事実です」


 オリヴィアは逃げることなく、静かに頷いた。


「やはりな」


 セドリックは忌々しげに机を叩いた。


「いくらあなたが実技で成果を出したとはいえ、金銭の授受があった有力者たちから推薦を受けて公的な実証事業に入り込んだとなれば、これは明白な癒着だ。公教育の場において、このような不透明な関係は決して許されない。試験の公平性が根底から覆る重大な問題だ!」


 調べる必要があることと、すでに癒着だと決めることは違う。オリヴィアは膝の上の書類を揃えた。


 オリヴィアは小さく息を吸い込み、真っ直ぐに顔を上げた。


「副議長閣下。送金があったのは事実です。そして私は現在、フェリクス・ロッシュ公爵と個人的にお付き合いをさせていただいております」


 隣のフェリクスが、小さく頷いた。事前に相談した通り、彼にも隠すつもりはなかった。


「なっ……! 公爵閣下と交際しているだと? それを自ら認めるというのか!」


「はい。隠すつもりはありません。好きな人を隠す必要など、どこにもありませんから」


 オリヴィアの声は凛として、少しの揺らぎもなかった。


「送金と返金は、採用前から監査へ届けています。審査した三名と、後援者の傍聴を外した経緯も記録にあります」


 オリヴィアは公庫の返金受領書と採用記録を出した。セドリックの質問書に欠けている日付へ、指を置く。


「送られた日だけでなく、返した日もご覧ください」


 ダリア監査官が、手元の資料を見ながら静かに頷いた。


「提出済みの記録と一致しています。送金だけを理由に、実演の合格を取り消す根拠はありません。採用記録と交際後の利益相反についても、引き続き確認します」


 ダリアの答えに、セドリックは質問書をめくった。彼の手元には、月謝が振り込まれた日だけが並んでいる。


 返した日も、審査から外れたことも、その紙にはなかった。


 オリヴィアは、自分の記録の写しを差し出した。


「こちらも、報告に添えてください」


 フェリクスが隣で静かに頷いた。彼女の手へ一度目を落とし、それから卓上の書面へ視線を戻す。今ここでは、触れない。その短い間が、かえって気になった。


「申告と確認の経緯は、以上です。次は、教材の記録について説明をお願いします」


 ダリア監査官が、淡々とした声で会議の主導権を握った。


「先日、ヴァンザール先生から提出された十年前の『補習ノートの原本』と、王立教育評議会の記録保管室にあった『教材受領簿』の照合結果についてです」


 その言葉が出た瞬間、同席していたヘルマン教務監理官の顔色が変わった。


「受領簿と提出控えには、作成者名と注意事項が残っています。現行版では両方がありません。改訂を承認した記録の提出を、正式に求めます」


 ヘルマンが口を開きかけ、隣を見た。


 セドリックは質問書を閉じた。


「原案を部門で編集するのは、通常の業務だ。手続きには応じる。しかし、個人の教え方を公教育へ広げる妥当性とは別だ。六人の実証だけでは、まだ足りない」


「その点は、今日の事業報告でご確認ください」


 ダリアが次の議題を示す。


 オリヴィアは書類を揃えた。名前の問題は、これから調べる。授業で何が起きたかは、今日報告できる。


 その時。会議室の扉がノックされ、研修所の責任者が予定表を手に顔を覗かせた。


「会議中に申し訳ありません。……次の議題の利用者報告で、参加予定の皆様がお揃いです」


「利用者報告?」


「それが……ヴァンザール先生の授業の成果について、ぜひ自らの言葉でお話ししたいと、事前に申し込まれた方々です」


 責任者が扉を大きく開け放つ。


 そこには、フェリクスやラウルたちのような権力者でも、身分の高い貴族でもない人々が立っていた。


 先週、村の教室から報告参加を申し込んでいた二人の若者。そして、実証研修でオリヴィアの指導を受け、自力で魔力を扱えるようになったトマたち成人受講生の姿があった。

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