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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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壁龕

 その部屋には女性の名前がついていた。


 【リゼル】


 そう呼ばれている。名前がついているのはこの部屋だけだ。


 幼いころのクリスは両親に、

「どうしてこのお部屋だけ名前がついているの?」

と聞いたが、

「昔からそう呼ばれているんだけど、どうしてなのかは誰も知らないんだ」

と言われた。

 幼いクリスは無邪気に、

「ふうん。じゃあ、僕も”リゼル”って呼ぶよ」

と元気よく言って、両親の笑いを誘った。


 【リゼル】に入ると、正面の壁に壁龕が2つある。周囲の壁はベージュ調なのだが、壁龕だけは濃い青の地になっており、壁龕の中央部分に丸く薄い青で花が描かれていた。


「ねぇねぇ、お父様。【リゼル】の壁龕は目の様ですね」

クリスはそう言って、

「【リゼル】の目はきれいなお花の目だね。大好き」

と笑った。


 成長したクリスは、スラリとした美しい青年となった。


 【リゼル】がお気に入りだった幼少期とは異なり、クリスは【リゼル】を避けるようになっていた。


 クリスが【リゼル】に入ると、必ず壁龕の中央の花が動いてクリスの姿を追うのだ。

 


読んでくださり、ありがとうございます。

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