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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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菜箸

 オフィスビルが立ち並ぶ一角に、小さな公園がある。と言っても、あるのはベンチと街灯くらいなもので、緑地帯と言った方がいいかもしれない。


 気候も暑さを過ぎて、外で食べるにはちょうどいい季節だ。良い天気に誘われて久しぶりに公園で昼食を食べることにした。


 いつもなら近くの会社の人だろうと言った感じの人たちが数人、同じようにベンチでお昼を食べているのだが、今日は女性が一人だけ木陰のベンチに座っていた。


 こちらに横顔を見せている女性は素晴らしく美人で、嫌味なほど派手な赤い服を着こなしている。


 彼女は箸をもっていた。妙に長い。持ち手の部分は赤かった。

(……菜箸?)

見ていると、彼女は何かを菜箸でつまんで木に向かって差し出した。


 ずるり


という聞こえるはずのない擬音が頭の中で鳴った。蛇が木の枝から垂れ下がってきて、女性が差し出した何かをパクリと食べた。


 女性はまた菜箸で何かをつまんで蛇に食べさせている。


 蛇は体の半分以上が木の上なのだろうか。とても長いように見える。


 ただただ、呆けたように女性と蛇を見ていた。


 どれくらいそうしていたのか、後ろから会話と足音がして、はっとして振り返った。


 スーツを着た男性が1人と作業服を着た男性が2名、あわただしく公園に入ってきた。作業服の男性の一人は長い柄のついたものを持っていて、もう一人は大きな箱を持っている。


(あぁ、蛇を捕まえに来たんだ)


 あの女性はどうするのだろうかと視線を女性に戻すと、女性も蛇も消えていた。


 後ろを振り返ると、3人の男性も呆気にとられた顔をしている。


 その呆気にとられた顔がこちらに向けられた。


「あの、女性、いましたよね?」

「はい。蛇に餌を……」

「市民から通報がありまして。公園に蛇がいると」

「見ました。あの木から垂れ下がってて」

「ええ。私も見ました」

 作業服姿の二人も頷いて同意している。


 なんとなく全員で女性が座っていたベンチのそばまで行った。ベンチの上に菜箸が一本、転がっていた。




 


読んでくださり、ありがとうございます。

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