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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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新人

 うちの会社はブラックだ。誰もかれも疲弊していて、上司の怒鳴り声が始終響いてくる。


 そんな会社に中途採用の人が来た。そこそこ整った顔立ちの穏やかそうな人で、みんな内心「すぐにやめるだろう」と思った。


 ところが、その新人は驚くほど仕事が出来た。上司の怒鳴り声も少なくなり、残業が減って社内の雰囲気も明るくなった。


 ふと気が付くと、新人に自分の仕事を押し付けている人が多いのに気が付いた。新人は甘やかな笑みを浮かべて、「ええ、いいですよ」と引き受けていた。それでいて、さほど残業をしないのだから、どれほど優秀なのか、何故うちのような会社にいるのかと思った。


 課長や部長まで新人に自分の仕事をやらせているのを目撃して、目を疑った。新人のあの甘やかな笑みは蠱惑的で、気がついたら自分も仕事を新人に任せるようになっていた。


 新人が来てから1年が立つ頃、ぷつりと来なくなった。飛んだのだ。


 うちの部署は大混乱に陥って、仕事が滞った。影響は部署内にとどまらず、会社にも響いて、半年ほどでつぶれてしまった。


 何とか採用された会社はまたブラックだった。つぶれた会社とそっくりな、殺伐とした会社だった。そこへまた犠牲者が来た。


(あれ?あいつ前にいた……)

そこそこ整った顔立ちの穏やかそうな男は、甘やかな笑みを浮かべていた。


 隣で目の下に濃い隈を作った同僚が、

「あれ?あいつ見たことが……あっ!前にいた会社潰したやつじゃん……。俺、この会社やめようかな」

と言った。



読んでくださり、ありがとうございます。

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