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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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魚

 友人宅に行くと、玄関の棚に水とろ過機だけがつけられた水槽が置いてあった。中には何もいない。


「魚入ってないぞ?」

「いるんだよ。透明な魚なんだ」

自慢げに友人はそう言った。スケルトンタイプの魚がいることは知っている。でも、本当に”見えない”魚など聞いたことがない。


「餌食べたらやっぱり透けて見えるのか?」

「いや。だから、透明なんだよ」

「どうやって捕まえたんだ?見えないんだろう?」

「さあな。俺ももらっただけだ。でも、こうやるとかすかに見えるんだ」

友人が水槽の横に置いていたライトをつけた。水槽の中が照らされる。

「目をよく凝らして見ろ」

言われた通り、じっと目を凝らすと本当にかすかに魚がいるのが分かった。合成と分かる映像に似ている。


 友人にひとしきりこの本当に透明な魚を自慢されて、

「お前にも譲ってやるよ。温度管理もいらないし、熱帯魚のエサでいいんだ」

と強引に持たされた。


 正直、水槽なんて持ってない。仕方なく持って帰って、近所で適当な安い水槽を買ってきて魚を入れた。


 透明な魚という希少価値はあるものの、観賞魚としての価値なんてあるのだろうかと思った。


 魚は少々餌を忘れてもすぐに死んだりしない。透明なせいで、よく餌をやるのを忘れるようになった。


 水槽の水が濁ってきてさすがに替えないといけないと思い、水槽をライトで照らしたが濁っているせいかよく分からない。そう言えば、随分餌をやるのを忘れている気もする。


 仕方なく手を突っ込んで魚が生きてるか確かめようと、水の中に手を入れた。手を入れてから不意に、「こいつ、本来は肉食なんだ」という友人の言葉が頭をよぎった。


 次の瞬間、指先がなくなって、水槽が真っ赤に染まった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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